米英通商合意、対世界10%関税が新基準にトランプ米大統領は英国との通商合意を発表し、「特に農業分野で米国の輸出市場アクセスが拡大する」と述べた(英語音声・英語字幕あり) Photo: Bonnie Cash/Pool via CNP/Zuma Press

 米国との良好な通商合意を得るに値する国があるとすれば、それは英国だった。事実、英国は対米貿易収支が赤字で、米国の工業製品を大量に購入し、自国の防衛に多額の支出をしている。ドナルド・トランプ米大統領が好感を持つ指導者もいる。

 しかし、8日に発表された通商合意は、英国にとって良い合意ではなく悪い合意だった。英国の対米輸出には最低10%の関税が課され(鉄鋼やジェットエンジンなど一部品目を除く)、関税率は2023年の2%未満から上昇する。自動車輸出が10万台を超えると、その分に25%の関税が課される。英国は米国産牛肉とエタノールに対する規制を緩和する。

 1年前に、米国がその最も古く最も忠実な同盟国に10%の関税を課すと聞いたら、両国間で何か恐ろしいことが起きたと思っただろう。米英両国がこれを好結果と評価し、株式市場もそれに同意しているという事実は、情勢がいかに大きく変化したかを物語っている。

 米国は今や高関税の保護主義国となった。今後の通商合意は、障壁がどれだけ下がるかではなく、どれだけ上がるかで判断されることになる。他国はより悪い結果に終わるだろうが、それとの比較においてのみ今回の合意は英国の勝利と言えよう。

 米国のバイデン前政権下で通商交渉官を務めたエバーコアISIのアナリスト、サラ・ビアンキ氏は9日の顧客向けメモで、「10%という基準は定着する。英国がゼロまで引き下げられないのであれば、他の国にそれができる可能性は極めて低い」と述べた。

 株価が上昇したのは、投資家がこの合意を米国の経済成長に対する追い風と見ているからではなく、さらなる合意実現の可能性が高まったと見ているからだ。今後数日中にスイスで会談予定の米中当局者が、両国が互いに課している3桁の関税を近く引き下げるとの期待がある。