「優しすぎる人に精神科医が教える『ノーの伝え方』とは?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「断ること」はできる?
「周りに認められたい」
「迷惑をかけたくない」
そんなふうに他人の顔色を見て、ついつい無理していませんか?
先輩や上司からの頼み事を断れず、自分のキャパを超えて抱え込んでしまう……。そんな「優しさ」が、あなたを苦しめているかもしれません。
今回は、精神科医として、NOと言えないあなたが「断れない」ループから抜け出し、自分を大切にするためのヒントについて共有したいと思います。
「ノー」と言えない?
それはあなたのせいじゃない
新しい環境で「断れない」のは、決してあなたが弱いからではありません。
「早く仕事を覚えたい」という意欲や「嫌われたくない」という人間関係への不安、「我慢しなきゃ」という思い込み……。これらは多くの社会人が抱える自然な感情です。
ある種の処世術と言ってもよい社会を生きるために大切なスキルですが、それでも、無理を続けると心は疲弊してしまいまいます。
いつも笑顔で頼まれ事を引き受けていると、「自分の仕事が終わらない」「都合よく扱われてしまうかも」「心身ともにクタクタ…」なんてことになりがちです。
「断れない」が続いてしまうと、必然的にタスクが増えてしまい、いつかあなたのキャパシティーを超えてしまいます。
あなたの優しさが、逆にあなたを追い詰めてしまうのです。
「私を大切にするノー」の伝え方
そのため、「断る」ことは、自分を守るだけでなく、長く仕事を続けていけるようになるための大切なスキルなのです。
今日から「ノー」の伝え方について練習してみましょう。
1. 「正直さ」を意識する
断ることが「悪いこと」だと感じてしまう場合ほど、「今のあなたの現状を正直に伝える」ことの大切さを意識しましょう。
仕事を頼む人もほんとうはあなたの状況を正確に判断したのかもしれません。
頼まれたら、まず「ありがとうございます。ただ、現在〇〇の作業を抱えておりまして……」と、やる気は見せつつ現状を正直に伝える手段を身につけましょう。
2. 「できる範囲」を具体的に示す
いつも全てを断っていると仕事に支障が出てしまいます。
あなたの仕事で抱えられる範囲をまず意識して、そのうえで、
「申し訳ありません、今日は難しいのですが、明日午前中なら〇〇の部分はお手伝いできます!」
と、協力できる部分を提案するのも良い方法です。
3. まずは「ありがとう」と「ごめんなさい」
「お誘い嬉しいです! でも、あいにく先約があって……。本当にごめんなさい」というように、感謝や謝罪の言葉を添えると、柔らかい印象になります。
いきなり「ノー」を突きつけるのに気が引けるときにはワンクッションを置くことで、断るときにあなたの気持ちにゆとりが生まれるかもしれません。
4. 「ノー」が相手のためになることも
誠実に断ることを伝えれば、相手も理解してくれることのほうが多いです。
断られても、あなたが思うほど、相手は気にしていないかもしれません。
むしろ、「ノー」と言えたことで、上司からもちゃんとコミュニケーションが取れていると、満足してもらえる場合もあるのです。
「ノー」が言えたほうが
仕事はきっと楽しくなる!
上手に断れるようになると、自分の時間と心の余裕が生まれ、本当にやるべき仕事に集中できます。
周りもあなたのキャパを理解し、より適切な仕事を任せてくれるようになり、「自分はこれでいいんだ」という自信にもつながります。
じゃんけんというゲームも「グー・チョキ・パー」があるから楽しくなるように、ときには「ノー」というカードがきれることで、仕事にメリハリもつくでしょう。
「ノー」が言いにくいあなたへ。
その真面目さ、優しさは素晴らしい宝物です。
だからこそ、まずは「やさしさ」は自分自身のために使ってあげてください。
「断る」ことは決して悪いことではなく、仕事という長いマラソンを走り抜くため、あなたが心身ともに健康で、長く自分らしく働くための大切なカードなのです。
焦らず、できることから試して、心地よい働き方を見つけていきましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。