【飛行機を作っても儲からない!?】航空大国フランスの意外な真実
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【飛行機を作っても儲からない!?】航空大国フランスの意外な真実Photo: Adobe Stock

フランスが貿易赤字国になる「構造的な理由」

 世界で、大型ジェット機を生産している企業は、ボーイング社とエアバス社の2社が知られています。元々大型ジェット機市場において圧倒的シェアを占めていたのはボーイング社でした。

 そこにヨーロッパから参入するべく、1970年にフランスと西ドイツが共同出資して設立したのがエアバス社でした。後にイギリス、スペインが加わり4カ国体制となります。本社はフランス南部のトゥールーズにあります。

 フランスには、ルノー社という世界的に有名な自動車企業があり、自動車工業は航空機工業とともに主要産業の1つです。(輸出2位「自動車」、3位「航空機」)。そんなフランスは、実は輸入超過で貿易赤字国です。しかも、その貿易赤字の多くがEU域内で生じています。

 飛行機の生産過程についてお話しすると、飛行機は数百万点に及ぶ部品から製造されます。徹底的に安全性を高めるために高い技術が求められ、技術開発には多額の資金が必要です。そのため投資額を回収するまでに長い時間を要します。

 これは経営上、非常にリスクが大きいため、企業が単独で遂行することはありません。飛行機の開発や製造には多くの企業が参画します。

 エアバス社もまた、EU域内の各国で生産された飛行機の部品をフランスに集めて組み立てています。フランスは飛行機部品を数多く輸入している国であるため、飛行機の輸出が盛んであっても、EU域内貿易は赤字となっているのです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)