投資には常に「不確定要素」がつきものだ。一体どうすれば、不運な目に遭わずに投資で成功できるのか? 今回は、「読むと人生が変わる」「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛されている、全世界40万部突破のベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(ニック・マジューリ著)を題材に、数々の実績を積み重ねてきた「絶対達成コンサルタント」横山信弘氏が「静かな退職」と「投資の継続力」の意外な関係性について語る。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

「静かな退職」と「投資の原理」
「君が希望する会社には、採用されないと思うよ……」
人事担当者が求職者にこう伝えたくなるケースが増えている。
前職で「静かな退職」をしていたり、退職代行を選択した若者たちが転職市場で次々と不採用通知を受け取ったりしている。
途方に暮れる若者も増えているという。
そこで今回は、なぜこのようなZ世代の若者が転職市場でつまずくのか、投資の原理を使いながら解説する。
人事担当者や経営者はもちろんのこと、キャリア形成に悩む若者も、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
「静かな退職」の代償が可視化される時代
なぜこんなことになるんだ……。
「静かな退職」を選んだ若者が途方に暮れていた。
「静かな退職」という働き方を選ぶ若者が急増している。
しかし転職市場では、そうした若者たちが想定外の苦戦を強いられている。
この現象を理解するには、企業の採用プロセスの変化を知る必要がある。
実は多くの若者が知らない事実がある。
企業は「前職調査」という手法で、候補者の過去の勤務態度を徹底的に調べているのだ。
前職調査とは、おもに中途採用の選考過程において、応募者が過去に勤務していた会社に対して行われる確認作業である。
もちろん応募者の同意を得たうえで実施される。ただ同意を求められるとはいえ、断る人はほとんどいないようだ。採用担当者に「なぜ嫌がる?」と勘ぐられると困るからだ。
企業による「前職調査」の衝撃的実態
「積極性が低く、採用時に示された以外の業務を断るケースが多く見られた」
「上長に相談することなく突然退職代行を使って離職。引き継ぎ不十分で顧客対応に支障をきたした」
ある総合商社では、営業職の中途採用でこのような報告が上がった。
書類や面接の評価は良好だったにもかかわらず、最終的に内定を見送った。
「静かな退職」をしていた若者は、知らぬ間に自分の市場価値を下げる評価を蓄積させているのだ。
転職市場は思いのほか狭い世界である。
業界内での情報は想像以上に共有されており、一度ついた評価はなかなか消えない。軽い気持ちで選んだ退職代行や「静かな退職」が、長期的なキャリアに深刻な影響を与えているかもしれないのだ。
投資の「継続の力」が教えるキャリア戦略
興味深いのは、投資の世界で語られる「継続の力」と、現代における「キャリア形成」が似ていることだ。
ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』では、「とにかく買い続けろ」というシンプルな真理が説かれている。
市場が荒れ狂っても、変わらず積立を続ける。複利の力が働き、雪だるま式に資産は膨らんでいくからだ。
キャリアにも同じ原理が働くのではないか。
「静かな退職」をしたり、退職代行を使ったりすれば、この積立を途中で止めた投資家と同じだ。
10年かけて徐々に膨らむはずの経験と信用という複利を、自らリセットしてしまったようなものである。
投資の世界で完璧に儲かる銘柄を見つけるのは、ほとんど不可能。就職先、転職先も同じだ。
よく言われるように「選んだ道が正しいかどうかで悩むのではなく、選んだ道を正解にしていく」ことが重要だ。
もちろん、よほどひどい会社であれば話は別だが、期待と現実のギャップはどの会社にもある。
明暗を分けた2人の実例
不動産仲介のIさん(28歳)は、3年目までは賃貸の契約書作成しか任されず、転職を考えた。
しかし4年目にオーナーとのリレーションを任され、5年目には仕入れを経験し、今では収益不動産の売買を一手に引き受ける営業責任者だ。
「あの地味な下積みがなければ今の顧客は獲得できなかった」と振り返る。
対照的に、同年代のKさんは「評価に納得できない」「成長している実感がない」という理由で退職代行を利用して転職した。
だが、前職調査で「引き継ぎ放棄」「チームワークを軽視する姿勢」と報告された結果、希望年収を大幅に下げても内定が出ない。現在は派遣で生活費をつなぐ状況にある。
この差は偶然ではない。
Iさんは下積み期間中も「将来の投資」として捉え、顧客との関係構築や業界知識の習得に励んだ。一方、Kさんは目先の不満に目を奪われ、長期的な視点を失ったのだ。
「小さな雪の玉」を淡々と積み上げよう
投資の世界では「続けられる仕組みを先につくる」ことが推奨される。
同様に、キャリアでも「続けられる環境」を設計することが重要だ。
もし希望と違うのなら上司と対話を繰り返し、裁量やジョブローテーションを求めよう。会社に交渉余地がないなら、きちんと引き継ぎをすませたうえで戦略的な転職を行う。
雪だるまを転がす手を止めた瞬間、球は小さくなるか消える。
Z世代が本当に合理的でありたいなら、退職代行の電話番号を押す前に一度思い出してほしい。
継続という名の複利こそ若者にとって最大の資産だ。
途中で放り出す合理性はどこにもない。
今月も来月も、経験という名の「小さな雪の玉」を淡々と積み上げよう。そうすればいずれ、それに見合うリターン(大きな雪だるま)が返ってくるはずだ。そんな大切なことを、本書はじっくり教えてくれたのだ。
(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし特別投稿です)
横山信弘(よこやま・のぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成する部下の育て方』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。