イラッとすることを言われたら、三流は「怒る」、二流は「論破する」。一流はどうする？

いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』（ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳）がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。（ダイヤモンド社書籍編集局）

夫婦で正反対の思い込みを持っていた

　以前、あるニュースに関して、私の見方とは正反対の見方を夫がしているので驚いた。

　私はAが正しいと思っているのに対し、夫はAが間違っていると思っている。

「みんな、Aが間違ってると言ってるよ？」と夫。

「そんなバカな……」

　私が見ているSNSのタイムラインと夫の見ているタイムラインは、それぞれ正反対の意見で埋め尽くされているのだった。

　これはSNSのアルゴリズムによる「エコーチェンバー現象」と呼ばれるものだろう。

　誰をフォローしているか、どのような話題に反応しているかによって、その人に合わせた「おすすめ」の投稿が表示されるようになっている。それによって、自分の考えがより強化される方向に向かっていく。いつしか、こちら側が絶対に正しく、反対の意見を持つ相手はおかしいと思い込むようになる。

　よく見れば私のタイムラインにも反対意見がまったくないわけではなかった。でも、それは少数派の、「話の通じない人」「アンチ」として見えていた。逆の立場で同じことが夫にも起きているようだった。

意見が違う人＝話の通じないアンチ、ではない

　私は「Aが間違っているなんて言う人とは仲良くなれない」と思っていたが、一番身近にそんな人がいた。

　それで、お互いになぜそう思うに至ったか話し合うことができた。

　話を聞けばその理屈もわからなくはないし、当然ながら「意見が合わないから人として無理」などということにはならない。配偶者であろうと意見の合うところもあれば合わないところもある、それは普通のことだ。

　とすれば、私がSNS上で「この人は絶対おかしい」「ありえない」と思っている人も、そんなことはないのかもしれない。会って話したら仲良くなれるのかもしれない。

　こうしたことはたくさん起きているのではないか。意見の合わない人ともしっかりと話す機会がなければ、どんどん偏り、共感力のない人間になってしまいそうだ。

　古代ローマの哲学者セネカは、すべての人に共感を抱くようにしなさいということを言っている。

すべての人に共感を抱く

　ストイシズム（ストア哲学）では、人間は生まれつき社会的な生き物で、集団で協力し合って生きていくようにできていると考えられている。

　その前提に立てば、すべての人に愛情と思いやりを持って接するのは人として大切なことだ。

　これは情動的な共感ではなく、理性的な共感である。

　つまり、「意見や立場が同じだから共感する」というのではなく、すべての人に対し、同じ人間であることから来る共感の気持ちを持つということだ。誰に対しても敬意を持ち、理解しようと努めれば、無用な誤解や分断が深まることもないだろう。

相手を理解しようとする

　ストイシズムは、外部のできごとや他人をコントロールすることは不可能なので、コントロール可能な自分の心を磨こうという考え方だ。

　ストイシズムの観点からすると、誰かが自分の考えとは異なることを言ったりイラッとさせるようなことを言ったとき、怒ったりイライラすることは意味のない反応だ。

　怒りに任せて相手をやりこめようとしたり論破したりすることも違う。

　賢い対応は、相手の立場にも共感を抱き、理解しようと努力し、理性的に対話することだ。

　ネット上の言論ばかりを見ていると、理性的な共感を忘れそうになってしまう。

　セネカの言う「共感と社交性」を肝に銘じて、安易に人を否定しないようにしたいと思う。

（本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です）