そのうちの1つが、筋肉を動かす神経(運動ニューロン)が障害されることで、全身の筋力が低下していく「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という難病です。
ALSの患者数は年々増加
最も発症しやすいのは60~70代
ALSは進行性の病気で、最初は四肢や体幹の筋力低下から始まることが多いものの、やがては嚥下(えんげ)や呼吸に必要な筋力までもが衰弱し、生命を維持していくには胃ろうの造設や人工呼吸器の装着も必要になります。
意識はずっと明瞭なままであるにもかかわらず、体の機能だけが失われていくので、患者さん本人はもちろん、その家族にとっても非常につらく過酷な病気です。
ALSに罹患(りかん)したことで知られるのは、イギリスの理論物理学者であるホーキング博士(スティーヴン・ウィリアム・ホーキング)で、彼は21歳の頃にALSと診断されましたが、その後も病と闘いながら、50年以上にわたり研究活動を続け、多くの業績を残しました。
ただ、ホーキング博士のようなケースは非常にまれで、発症のしかたや経過には個人差があるものの、短期間のうちに症状が進行することが多く、人工呼吸器を使わない場合の発症からの余命は2~5年くらいだといわれています。
また、ホーキング博士のように若くして発症することもありますが、最も発症しやすいのは60~70代です。2020年時点での日本での患者数は1万514人だと報告されていますが、その数は年々増加傾向にあります。
ALSの原因は十分には解明されておらず、治療法もまだ確立されていませんが、ALSの約1割は家族内で発症する家族性ALSで、日本人の家族性ALSは、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の遺伝子変異が共通して起こっていることが徐々に明らかになってきました。
ALSモデルマウスにGT863を
投与して得られた効果
SOD1というのは金属イオンが含まれたタンパク質の一種なのですが、ALSの患者さんの病変部位にはSOD1の凝集があることも報告されています。
そのようなことから、SOD1というタンパク質の凝集が神経毒性を示しALSの発症につながっているのではないかと考えられるようになり、まさに今、その研究が進められているのです。