GT863の凝集抑制作用は、アミロイドβやタウ以外のタンパク質にも発揮される可能性があります。
山形大学医学部の加藤丈夫教授(当時)から、「GT863がアミロイドβやタウというまったく異なる構造のタンパク質の凝集を抑制するのであれば、一部の家族性ALSで認められるSOD1凝集も抑制する可能性があるのではないか」との申し出を受け、私たちは共同研究を開始しました。
変異を起こしたSOD1遺伝子を導入したマウスを東北大学医学部神経内科の青木正志教授に提供いただき、観察を続けたところマウスの脊髄(せきずい)にSOD1の凝集・蓄積が見られるようになり、そのまま放っておくと生後約20週でALSを発症することが確認されました。
そのALSモデルマウスにGT863を投与した群と投与しない群を比較したところ、投与した群では運動機能の低下や脊髄の運動神経細胞死が抑制され、さらには濃度の高いGT863を投与すればするほどSOD1の異常凝集もより効果的に抑制されることがわかったのです。また、脊髄の不溶性SOD1の形成も大幅に抑制されていることも確認されました。
GT863には、ALSやプリオン病の
進行を食い止められる可能性もある
つまり、GT863にはSOD1の異常凝集を抑制することで、ALSの進行を食い止める可能性があることが十分に推定される結果が得られたのです。
また、非常にまれな疾患ではありますが、さまざまな精神症状や運動失調、認知障害などを引き起こしながら、やがて死に至る「プリオン病」の原因も、「プリオン」と呼ばれるタンパク質の異常凝集だと考えられています。
そしてGT863をプリオン病モデルマウスに経口投与するだけで、プリオンの異常凝集がどんどん増殖することを抑え、死に至るまでの期間をはるかに延長できることも、東北大学医学部の堂浦克美教授、照屋健太准教授との共同研究で確認しています。
GT863はプリオン病の進行を経口投与で食い止める可能性があることが十分に推定される結果も得られたのです。
ここまで紹介したような効果を確認したGT863の基礎研究はすでに終了しており、今後は2年間の開発研究を経て、臨床研究へと進む予定です。