成功すればGT863の薬剤費は年間50万円程度と、レカネマブやドナネマブ(編集部注/アルツハイマー型認知症の治療薬)の約300万円と比較すると圧倒的に安く済みますし、しかも錠剤で服用できるので点滴するためにわざわざ病院に通う必要もなくなります。効果はもちろんですが、使いやすさという意味でのメリットも大きいと自負しています。

 ただ、新薬として承認されるまでには、約2年間の開発研究の後に、フェーズ1からフェーズ3までの臨床研究もクリアしなければなりません。

GT863の目指すゴールは
2033~2035年の発売

 それを考えると、GT863が発売されるのは早くても8年後の2033年、遅ければ10年後の2035年になるのではないかと思っています。だから私は少なくともあと、10年、92歳になるまでは、バリバリ働かなくてはならないのです。

 もちろん、そこに至るまでには費用の壁もあります。この先の臨床研究まで含めると約300億円が必要になるので、現在はその資金調達に東奔西走しています。GT863の有効性には自信を持っていますから、研究の行方よりも、こちらのほうが圧倒的に高い壁だと思っています。

 このように新薬開発への投資はただでさえリスクが高いですし、しかも、我が社は社員数わずか4~5人のベンチャー企業ですから、投資家たちはなかなか首を縦には振ってくれませんね。

 それでも、私は諦めるつもりはありません。なぜかというと私には誰にも負けない「運」があるからです。

 エーザイ時代も「運だけで生きている」といわれてきましたし、新薬開発の成功率は0.002%といわれるなかでこれまでに2度も新薬開発に成功した実績もあります。ありがたいことに、薬のノーベル賞といわれる「英国ガリアン賞特別賞」を受賞することもできました。だから必ず成功すると信じているのです。

 そもそも薬というのは逆さに読めば「リスク」なのですから、いい意味で大馬鹿になってリスクを取らなければ成功なんて絶対にあり得ないのだと思っています。