ChatGPTを公開されてから約2年半が経つ。登場当初の「会話ができるAI」という驚きは、「業務を担うAI」へと改められ、文書やプログラムの作成、データ解析、意思決定支援など、多様な業務に活用されている。もはやAI技術の活用が、企業の競争力と持続的な成長に不可欠であることは自明である。

とりわけ注視すべきは、AI技術の革新が加速度的に進んでいる点だ。すでに現代版産業革命の只中におり、ここ数年ほどの間に、先行企業と様子見を決め込んだ企業との間で、埋めがたい差が生まれる可能性が高い。ホワイトカラーの仕事や求められるスキルセットも、今後大きく塗り替えられていくはずだ。

書籍『GPT時代の企業革新』」では、こうした現場をふまえて、Ridgelinez株式会社の野村昌弘氏を中心とする執筆陣が、GPTをはじめとするAI技術の進展および企業への導入にあたり、人の役割や組織形態、ビジネスモデル、経営戦略をどのように変革していくかについて詳述している。

本連載の第1回では、本書に寄せた推薦文が遺稿となった一橋大学名誉教授 野中郁次郎氏の言葉も織り交ぜながら、新たなAI技術とどのように対峙し、ビジネスに取り込んでいくべきかを見ていく。

 

GPTが変える仕事と組織の未来〈PR〉

ChatGPTが企業を根本から変える時代へ

 ChatGPTの登場は、単なる技術革新にとどまらず、私たちの働き方や企業の在り方そのものを問い直す存在となった。これまでのAIが、業務の効率化や生産性向上を目的とした「ツール」にすぎなかったのに対し、ChatGPTを代表とする「新たなAI技術」は、企業の構造的変革をもたらす力を秘めている。

 そのインパクトは業務レベルにとどまらず、人間の役割、組織形態、ビジネスモデル、収益構造、経営戦略にまで及ぶ。今後、職場ではAIが単なる業務支援を超えて、人間の同僚や先輩、あるいは上司として振る舞うような時代が到来する。

 AIベースのシステムは、大量のデータを高速・正確に処理し、長時間にわたって稼働できるという特性を持つ。過去のデータをもとにパターンを見つけ、繰り返し作業を自動化する能力は人間をはるかに凌駕する。たとえば、コールセンター業務では、定型的な質問に対する対応の大半をAIが担うことで、人手不足の解消や処理速度の劇的な向上が期待される。

 AIは24時間稼働し続け、問い合わせ内容を蓄積・学習しながら、より的確な対応を可能にする。蓄積されたデータは、顧客対応の質を高めるだけでなく、商品開発やマーケティング戦略の改善にも応用できる。コールセンターに限らず、反復性の高い業務をAIが担うことで、従業員はより創造的・戦略的な仕事に集中できるようになる。

 

職を奪うのはAIではなく、変化に乗り遅れた企業

 一方で、「AIが職を奪うのではないか」といった不安が根強く残っているのも事実だ。しかし重要なのは、AIそのものではなく、それを活用できなかった企業こそが人の職を脅かすという視点である。同書では次のように警鐘を鳴らしている。

 「AIを適切に導入できず、新たな業務に移行できなかった企業は、AIで進化を遂げた他社に競り負けるリスクを抱えることになる。これまでのビジネスモデルやサービス提供方法が通用しなくなると、新しい価値を生み出す能力が欠けている企業は競争力を失い、やがて市場から排除されることになる。そうした企業では、多くの社員が職を失うことになる」(164ページ)

 先のコールセンターの例でいえば、AIが定型的な質問への対応を担うようになれば、人間は複雑で個別性の高い対応に専念することができる。むしろAIの導入によって人員を再配置し、新たな事業開発やコア業務に集中できる環境が整う。今後、ますます労働人口が減っていくことは明確であり、AIとの共存こそが、長期的には人の職を守る手段ともなる。