人間に残された価値、それは「創造性」
AIの導入は、人間の存在意義を否定するものではなく、むしろ人間の可能性を引き出す存在となる。AIを人間の存在を脅かす存在として捉えるのではなく、強力なパートナーとして共に成長していく姿勢が求められている。
そのために必要なのは、企業だけでなく従業員一人ひとりがAIとの共存を前提に意識を変えることだ。新しい業務への適応、学び直し、そして創造的な価値を発揮する姿勢が不可欠となる。
こうした変化のなかで、真に人間にしかできない価値とは何か──それは創造性と直観、そして身体知である。同書に推薦文を寄せた故・野中郁次郎一橋大学名誉教授は、「二項対立ではなく二項動態」という考え方を提唱している。
簡単にいえば、「現実のプロセスは静的なものではなく動的なものであり、正か反かの二項対立で一方を否定するのではなく、『あれもこれも』を受け入れ、対立や矛盾がもたらす葛藤の中から新たな知を創造することが重要だ」という考えである。
生成AIが形式知の領域で力を発揮する一方、人間は暗黙知や直観といった感性をもとに、新たな知識を生み出す存在であり続ける。この相互補完関係が、企業の中に真のイノベーションを生み出す。前出の野中氏は「AIに宿らぬ直観と身体知こそが創造性の源泉」とも語っているが、新たなAI時代に人間に求められるのは、創造性であり、直観力であり、柔軟性である。
AI時代の企業進化は「人の進化」が鍵を握る
AIの導入はゴールではなく、むしろスタートラインである。企業は積極的にAIを取り入れ、組織全体の変革を推進できなければ、市場から淘汰されることになるだろう。それだけ、AIの活用による可能性はあらゆる分野・側面に広がっている。
企業がAIを活用し、変革の波を先導していくためには、社員一人ひとりが進化し、創造的に働く環境を整える必要がある。AIと人間の協働による「集合知」の創造こそが、これからの企業価値の源泉となる。今、私たちの目の前にあるのは単なる技術革新ではない。新たな社会のあり方そのものである。企業はAIとともに進化し、未来を切り拓く存在へと生まれ変わらなければならない。
Ridgelinez株式会社 上席執行役員 Partner,Business Science Practice Leader。
流通業、製造業におけるSCM改革、業務改革、IT戦略コンサル