世間では「働き方改革」とかいわれているけれど、ぼくの会社は「昭和」から抜け出せていない。
早出、休出、深夜残業、サービス残業。そしてパワハラ、セクハラ、カスハラ。
どこにでもいる平凡な会社員の日常を描いた、5分で読める気軽なショートストーリーです。
通勤中や休憩時間に読んで、クスっと笑ったり、ホロっと涙ぐんだりしてください。
(この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です。

時間があるから工夫をサボる
ぼくが20代のころ。
休日もたまにオフィスで働いていた。
家からオフィスまで歩いて3分。
「近いから」という理由で職場のカギを預かっていたのだ。
「カギを締めてくれ」と呼び出されることもあったけど…
休日出勤するときはマジで便利だ。
ガチャ。
日曜の10時。誰もいないオフィスに入る。
静けさが気持ちいい。
(ふんふ~ん)
仕事を始めて1時間が過ぎたころ。
ガチャ。
オフィスに部長が入ってきた。
「あれ? お前、何してるんだ?」
部長がジトッとこっちを見る。
「ちょっと私用で…ハハッ」
どう見てもバレているけど…
苦しいウソをついた。
部長はちょっと考えてから…
「そうか」と言って自席についた。
…ひとまず見逃してくれたらしい。
今では考えられないけれど…
15年前はルールも緩かったのだ。
…助かった。仕事を再開する。
カタカタカタカタ…
エクセルと格闘して1時間が過ぎたころ。
「おい」
部長が声をかけてきた。
「缶コーヒー飲むか?」
休憩の誘いだった。しかもおごりだ。
「忙しいか?」
「いえ。私用です…」
「やりすぎるなよ」
コーヒーを片手に漫才みたいな雑談をする。
一息いれて仕事を再開した。
カタカタカタカタ…
1時間後。
「おい。そろそろ帰れ」
「あ…はい」
潮時だな。さいわい仕事の目途もついた。
「お疲れさまでした」
「お疲れさん」
かくして部長との遭遇戦は終了した。
後日、先輩たちと飲んだとき。
ぼくはこの話を打ち明けた。
「日曜日に部長と遭遇しちゃって…ヒヤッとしました」
すると「オレも遭遇したぞ」「オレもだ!」
先輩たちが口をそろえる。
当時は休日でも働く人が多かったのだ。
その中でJ先輩が言い放った。
「オレは経験ないな」
飲み会の途中でトイレにいくとJ先輩と一緒になった。
そして声をかけられる。
「時間に甘えるなよ」
のちにJ先輩は40歳で部長になり出世街道を駆け抜けてゆく。
ぼくは時間に甘えた働き方を続けて30代半ばで行き詰まった。
そして40歳で転職をして気づく。
時間があるから工夫をサボる
制限があるから考えて成長する
もう時間に甘えない。
定時ダッシュを貫くと心に決めた。
でも…あの日のコーヒーはいつもより美味かった。
(この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です。