「想定できたはず」を
避けるためにすべきこと
古いものから学び、新しいものを生み出す「温故知新」という言葉。100年前の家から学べることもありますが、十数年前の家から学べることもあります。我が家で暮らして学べたことがたくさんあるからです。どんなに緻密にライフプランを作成しても、少し時間が経って変わることはあるものです。もちろん「そこは想定できたはず」ということは避けたいです。家族で暮らす場合、家の価値は家族それぞれで違ってくるものです。妻にも「ここが不便」と感じていることがあるようです。
例えば、洗濯物の動線。1階で洗濯したものを2階のフリースペースやバルコニーに持ち運んで干す手間です。家を建てた当初は、1階のウッドデッキや庭で干していましたが、犬を飼うことになり、干す場所を変更せざるを得なくなったからです。また、1階に設置した薪ストーブは、薪や火の管理が面倒であることがネックになっています。エアコンによる暖房よりも部屋は温もりますが、毎日の作業となると億劫になってしまうこともあるのです。
私の気づきとしては、水回りの建材の選択ミスです。天然木が好きなのでキッチンや脱衣室の床を全面板貼りにしましたが、キッチンでは汚れ、脱衣室では水の染みが出て、それを取り除くことは困難です。ここは、部分的にでもフロアタイルにしておけばよかったと思っています。

家事動線は想定外だったとしても、薪ストーブや水回りの天然木の使用は、私の趣味趣向を優先したことによる反省点です。家づくりは「最終的になにを優先するか」という判断の繰り返しでできあがっていきます。優先順位自体に間違いはなかったと思っていますが、デメリットを深く理解しておけば、別の対応策もあったと思います。よく同業者と「家づくりは本当に難しいですよね」という会話をします。お客さんによって答えがそれぞれあり、そこから学ぶことばかりです。
もちろん、私は我が家を「建ててよかった」と思っています。それは高性能がもたらす快適性や利便性という側面もありますが、やはり「考えてつくった」という過程があるからです。また、家をつくったらゴールではなく、私が人生づくりの道中に家族と一緒にいるからだと思います。本文で紹介した事例のご家庭と同様に「住んでよかった」と心から感じています。