世間では「働き方改革」とかいわれているけれど、ぼくの会社は「昭和」から抜け出せていない。
早出、休出、深夜残業、サービス残業。そしてパワハラ、セクハラ、カスハラ。
どこにでもいる平凡な会社員の日常を描いた、5分で読める気軽なショートストーリーです。
通勤中や休憩時間に読んで、クスっと笑ったり、ホロっと涙ぐんだりしてください。
(この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です)

多くの残業は「雰囲気」でやらされているPhoto: Adobe Stock

真夜中の報告メール

中国出張中のKくんとF部長のメール。
1日目 24:00
Kくん→F部長

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お疲れ様です。
今日はお客さまを3件訪問して先ほどホテルに着きました。
明日も朝からお客さまを訪問します。

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2日目 8:00
F部長→Kくん

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出張お疲れさん。
大変だと思うけど若さで乗り切ってくれ。

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3日目 25:40
Kくん→F部長

本日は4件のお客さまを回りました。
最後にお客さまと食事をして飲まされすぎてトイレに何度も駆け込みましたが…
気に入ってもらえたのか商談が前に進みそうです。

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3日目 8時
F部長→Kくん

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よくやった。
若いお前たちを行かせた甲斐がある。
ほめてつかわす!

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ぼくはとなりにいる同僚に向かってつぶやいた。

「これ…まずくないですか?」
「え? 何が?」
「だって、このやりとり、若手メンバー含めて50人以上に宛先が入ってますよ…」

深夜のメールに対してこの内容で部下をほめるのは「出張中は遅くまで働け」ということだと誤解されかねない。

同僚も察したらしく困ったようにつぶやいた。

「確かに。でもウチはその日にレポートを書く文化だから」

3日後。
帰ってきたKくんに声をかける。

「大変だったね」
「いやあ…今回はきつかったです」

タフな彼も苦笑いしていた。

「報告メール、翌朝じゃダメなの?」
「でも、その日のうちに打った方が喜ばれるんですよ」

その後も同僚たちは海外出張をすると、深夜でも早朝でもお構いなしにレポートを発信し、バリバリと働いていた。

2ヵ月後。
海外出張に行ったとき、ぼくは翌朝にレポートを書いた。

上司から「当日に出せないかな?」とチクリと言われたけれど「体調を崩すので」と押し切る。
それは本当にかすかな抵抗だった。

同僚たちはやっぱり先を争って、夜中にレポートやメールを発信する。

情報は早い方がいいのも事実だし、人様の働き方にどうこう言うのはお門違いなのは百も承知だ。
でも心身ともに疲れる海外出張で(ここまでやらせるか?)と思ってしまう。

残業の多くは会社員がダラけているせいじゃなくて、
“仕事が溢れている”
“雰囲気でやらされる”
会社側の問題が大きいのだ。

転職して発信を始めてから、密かに込めている自分の想いがある。

“時間を作れば会社員は変わる”

もしSNSで影響力をつければ、さざなみくらいは起こせるだろうか?
分からない。けどやってみる。

30代まで仕事に沼った自分は、時間の大切さを知っているから。
今はできなくても。波紋を起こしてやる。
ヤルッキャナイ

※この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です。