ミシュランシェフでも
マクドナルドを食べるワケ
このように観察力が高まったことで、作家とのコミュニケーションも変わっていった。以前は、ヒット作となるための足りないポイントを的確に伝えられるよう努力していた。ダメ出しをする機会が多かった。
しかし今は、違う方法を模索している。新人作家が自然と夢中になれる余白のあるお題をどう見つけて、提示するかを考えている。
コミュニケーション力を高めることで、相手と協力しやすい環境も生みたいと思っている。コミュニケーションやビジネスにおける交渉というのは、自分の意見を相手に理解してもらったり、取り入れてもらったりすることではなく、相手と自分の位置を理解し、その中間地点を探すことなのだ。
その実現のためには、自分の意見を磨くだけでなく、観察力を高める必要がある。
もうひとつ、知り合いの料理人から興味深いエピソードを聞いたので紹介したい。その料理人はミシュランガイドで星を取ったりする。
美食家だろうから、何を口に入れるかをこだわっているかとてっきり思ったら、定期的にマクドナルドのようないわゆるファストフードチェーンにも足を運び、世間一般の多くの人が好む味をチェックしていると言う。
マックだけではない。世の中にどのような味があるのか。世間からどう評価されているのかを、日々リサーチしているとも言う。
もちろん、自分が作る料理にそのまま活かすわけではないし、美味しいと感じるかどうかは別の話だ。大切なことは、自分とは違う立場のものも積極的に試してみる。このような姿勢だと僕は考えている。
このような姿勢や思考は、あらゆる仕事や人とのコミュニケーションにおいて重要である。毎日の仕事を楽しく過ごすためにも、視野を広げることは必要なことだと思う。
たとえば日々、企画を出すような仕事に就いている人。僕からは、多くの人が同じような領域や似たような切り口でアイディアを出しているように感じる。評価する側も同じく似たような、限られた土俵の中で、いかに多くの気づきポイントを出せるかを、評価基準としている。