つまり、子どもと大人の外国語学習に対する心理的態度が違うために、学習環境に差が出る、ということです。

 このほかにも説がありますが、今のところ、決定的な答えは出ていません。ここであげたどれもが原因となっている可能性もあります。

なぜアジア系学習者のみ
年齢の影響があったのか

 この年齢の問題に関して、2000年に京都で行われた言語科学会の大会で、ニューヨーク市立大学のジセラ・ジア(Gisela Jia)らの非常に面白い研究発表がありました。

 臨界期については、その存在を主張した有名な論文がジャクリーン・ジョンソン(Jacqueline Johnson)とエリッサ・ニューポート(Elissa Newport)によって1989年に発表されていますが、ジアの使った調査方法はこの研究に近いもので、アメリカへ移住した人のアメリカ到着時の年齢と英語能力のデータの関係を調べ、それをヨーロッパ系グループ(主にロシア語を母語とする学習者)とアジア系グループ(北京語、広東語、韓国語を母語とする学習者)に分けて比較しました。

 すると、ヨーロッパ系学習者には年齢の影響がありませんでしたが、アジア系学習者には統計的に有意な年齢の影響がありました。面白いことに、年齢要因の強い影響を見出したジョンソンとニューポートの被験者はみな、中国系と韓国系の学習者でした。

 中国系、韓国系の人がアメリカに行くと、いろいろな意味でアメリカ社会にフィットしないということがあります。そうすると、アメリカ人みたいになりたいとか、アメリカ人と同じような英語を話したいという気持ちも弱くなるでしょう。

 遊ぶ仲間も、アメリカ人と遊ぶより、アジア系どうしで固まりがちです。そしてその傾向は、ジアの研究によると、移住した年齢が高くなるほど強くなります。だから、英語がそんなに伸びない、というわけです。