ただ、それが本当に「臨界期」といったものなのかについては、意見が分かれるところです。

 まず第一に、思春期といわれる12~13歳を超えると、学習可能性が大きく下がってしまうのか、それとも、そんなにはっきりした臨界期があるわけではなく、年齢が上がるにしたがって徐々に下がっていくものなのか、について議論があります。

 次に、なぜ年齢の影響がそれほど強いのかという問題がありますが、その理由についても意見の一致がなく、さまざまな提案がなされています。

 まず、脳神経生物学的な説明があります。脳の構造が特定の年齢で変化し、その後は第二言語を学習する能力が衰えてしまう、という考え方です。脳のもつ柔軟性がある年齢になるとなくなってしまう、といってもいいかもしれません。

 母語に関しては、子どものときに事故などで脳を損傷し言語障害になったとしても、別の部位がその機能を担ってくれて言語が回復するが、大人の場合はそう簡単にはいかない、という現象が報告されており、これが言語習得に関する脳の柔軟性、可塑性が大人になると失われることの証拠としてよくあげられます。

 次に、認知的な説明によれば、「大人はすでに抽象的分析能力が身についているため、言語習得が自然に行えないが、子どもはあまり分析せず、第一言語を学ぶのと同じように、自然な習得ができる」ということになります。

 言語はインプットを理解することでかなり無意識的に習得されるので、あまり分析的に考えるとまずい、という考え方です。

 心理的態度の違いによる説明もあります。子どもは第二言語を習得するときに、自意識が発達していないので、他の子どもと自然に交わることができる。

 それに対して、大人はなかなか新しい環境に溶け込めず、また自我が発達しているため、外国語環境になじめない、というものです。