10兆円の投資を呼び込んだ「すごい仕組み」、いま大注目の国とは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

10兆円の投資を呼び込んだ「すごい仕組み」、いま大注目の国とは?Photo: Adobe Stock

いま大注目の国とは?

 インドネシアは人口およそ2億8120万(2023年)と人口大国であり、東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかでも最大級の市場規模を持つ国です。

 経済成長によって生活水準が向上すると、自動車購買層が増え、モータリゼーションが進行します。こうした国内需要の拡大が、インドネシアの自動車産業を支えています。さらに、インドネシアの合計特殊出生率は微減傾向にあるとはいえ、2.15(2022年)と依然として高い水準にあるため、今後も豊富な若年労働人口が製造業における組み立てや部品生産の現場を下支えしていきます。

 賃金水準が近年上昇傾向にありますが、相対的に高い水準というわけではなく、豊富な労働力と比較的安価な人件費が組み合わさることで、外資自動車メーカーや部品企業の進出を後押ししているようです。また、政情が安定している印象が強いことも、中長期の投資を促す材料として評価されています。これに加えて、インドネシア政府の産業振興策も大きく影響していると考えられます。

 外資誘致のための税制優遇措置や、経済特区の設置によって、海外企業にとってビジネスがしやすい環境を整えようとしています。例えば2024年10月、インドネシア政府が、6つの経済特区の新設と、1つの既存経済特区の拡張を承認し、およそ10兆3500億円の投資額の獲得と140万人の雇用の創出を目指すことを発表したのが好例です。

 こうした政策面と人口構造、比較的安価な労働力の組み合わせが、インドネシアの自動車市場にとって重要な土台といえます。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)