こうした意思決定の規範的モデルは、それとは知らず日常的な決定や判断でも適用されていることが少なくない。

 たとえば、部署に欠員が出て仕事が回らなくなったとする。

 その問題に対処する方法として、他部署からの異動で補充する、新規採用で補充する、業務のアウトソーシングをする、業務を縮小するなどの選択肢を挙げ、それぞれのメリット、デメリットやリスクを評価して、いずれかの選択肢(たとえば、新規採用)を選び、さらに同様のプロセスを適用して応募者の評価などを行い、後任を採用するといった具合である。

(マーチ&)サイモンは、人間の合理性の限界を踏まえ、最適基準の選択ではなく満足基準で選択していることが多いことを指摘したという意味で、現実の意思決定を描写した記述的モデルとみなすこともできる。

 先ほどの例に戻れば、募集活動への応募者が3名しかいなかった場合でも、ある程度の水準を満たしている候補者がいればそのなかから採用し、応募要件を最も満たす理想の候補者を探そうとしないということである。

 もっとも、(マーチ&)サイモンは上述のような規範的モデルを否定したというよりは、満足基準を適用して規範的モデルが現実的な形で用いられていることを示したと考えることもできる。

無秩序に問題解決が行われる
「ゴミ箱モデル」

 一方、ゴミ箱モデルは、組織において実際に行われている意思決定が、必ずしも規範的モデルに従っているわけではないことを記述するための理論枠組みである。

 ゴミ箱モデルでは、選択機会、参加者、問題、解という4つの要素に基づいて意思決定を抽象化する。

 ゴミ箱とは、選択機会のメタファーであり、選択を迫られる機会のことである。

 選択機会の典型としては定例的な会議などを思い浮かべればよいが、参加者・問題・解というその他の3つの要素が集まればそれも選択機会になりうる。

 たとえば、同じ部署の人たちと雑談しているなかでその部署が直面している問題が話題になったとき、たまたま通りがかった他部署の人が解決の糸口になりそうなアイデアを何気なく提供したという場面も、選択機会として捉えることができる。