このように、「問題(認識)から解決へ」という、われわれが常識と考えている意思決定や問題解決の流れを当然とみなさないために、ゴミ箱モデルは奇抜に感じられたり、難解であるように思われたりしている。

 しかし、問題と解がセットでなく、バラバラに浮上することはよくみられる。

 たとえば、著書を執筆している時点ではChatGPTなどの生成型AIが大きな話題となっており、これをいかにビジネスに活用するかといった記事が散見されるが、これなどもまさに生成型AIの利用という解が先にあって、それに合う問題を探している状態といえる。

 高橋伸夫は、ゴミ箱モデルにおける問題のやり過ごしから着想を得て、社員の「やり過ごし」に光を当てている(『できる社員は「やり過ごす」』日経ビジネス人文庫)。

 ここでいう「やり過ごし」とは、上司から指示があったにもかかわらず部下がその指示を実行しないことである。官僚制に代表されるような公式的な組織構造では、部下は上司の指示に従うことが当然とされている。

 もちろん多くの場合には部下は上司の指示に従うが、上司の指示があいまいだったり、仕事の進め方についてあいまい性が高い場合には「やり過ごし」が生じやすく、場合によっては「やり過ごす」ほうが合理的であることが主張されている。

 たとえば、上司が異動してきたばかりで、部下にかかる負荷に対して想像力が及ばずあいまいな指示をした場合などは、部下がその指示をやり過ごすことが組織の円滑な運営に資することもあるだろう。

あいまいな環境下のゴミ箱モデルが
イノベーション創出のきっかけに?

 また、田中政光『イノベーションと組織選択』(東洋経済新報社)は、イノベーション創出プロセスの検討にゴミ箱モデルを活用している。

 たとえば、3Mによるポストイットの開発プロセスにゴミ箱モデルが当てはめられている。ポストイット開発のきっかけは、スペンサー・シルバーが接着性の高い物質を開発しようとしたものの、逆にはがれやすい物質を見つけたことである。