当初の目的からすると失敗の結果として見いだされたのだが、開発者であるシルバーはこの材料にこだわり続けた。彼は5年間にわたり、社内のセミナーといったさまざまな「選択機会」でこの材料(「解」)を提示し続けた。
その後、彼は新たなベンチャー・チームと関わるようになり、そのメンバーの一人であるアート・フライが讃美歌に挟む栞が滑り落ちるという「問題」にこの材料を使えることをひらめいた。このように、ゴミ箱モデルを用いて一直線に進まないイノベーション創出のプロセスが説明されている。
すでに言及したように、ゴミ箱モデルはあいまい性が高い状況での意思決定を記述すべく提唱された。著書では、あいまい性という言葉は、組織の目的が首尾一貫しておらず、矛盾していたり、原因と結果の関係が明晰でなかったり、過去の解釈が揺れ動いたりすることなどを指している。

高尾義明 著
近年、環境変化を捉えるキーワードとして「VUCA」が言及されることが多くなっているが、最後のAはまさにあいまい性(Ambiguity)である(その他の3つは、Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性)。
VUCA時代といわれる現代では、ゴミ箱モデルを、意思決定をはじめとした組織プロセスを理解するためのレンズの1つとして活用できる場面が増えているのではないだろうか。
ここではゴミ箱モデルにのみ焦点を当てたが、著書ではあいまい性が高いなかでの組織の不完全な学習サイクルのモデルなども示されており、あいまい性が高い環境下の組織を理解するための多くの手がかりを提供している。