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京セラ、第二電電(現・KDDI)の創業者で、JALを再建した名経営者として知られる稲盛和夫さんが「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という経営理念を掲げるようになった意外なできごととは?※本稿は、高尾義明『組織論の名著30』(筑摩書房、ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「制度的リーダーシップ」とは
組織のあるべき姿を示し体現すること

 制度的リーダーシップを現在の日本企業に当てはめる場合には、経営理念と関連づけるとわかりやすい。

 15年以上前になるが、京都大学(経営管理大学院京セラ経営哲学寄附講座)で客員教員を兼任していた頃に、当時の東証1部上場全企業のホームページに1つ1つアクセスして、そこに経営理念が掲載されているかを調べたことがある(ゼミ生にアルバイトとして手伝ってもらったが)。

 その当時だと約75パーセントの企業のホームページに経営理念が掲載されていた。今ではコーポレートガバナンス・コードの原則の一つに「中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定」が含められていることもあり、100パーセント近くになっているものと想像される。

 一口に経営理念といってもさまざまな内容や形式があるが、近年の比較的ポピュラーな形式は「ミッション、ビジョン、バリュー」の階層構造で経営理念を示すものである。また、直近ではパーパス(存在意義)の重要性も話題になっている。

 もっとも、経営理念がお題目として額縁に飾られているだけの会社もあれば、コーポレートガバナンス・コードの原則でうたわれているように、経営理念が企業価値を高める活動と紐づき、経営陣や管理職が重要な意思決定を行う際に経営理念が参照される会社もあり、その浸透度にはかなりのバラつきがある。