あなたは最近、仕事で「考える」ことが増えていませんか? 新しい商品やサービスの企画。販売や宣伝の立案。マネジメント、採用、組織運営の戦略など。従来の方法が通用しなくなったいま、あらゆる仕事で「新しいことを考える」ことが求められます。でも、朝から晩まで考え続けた結果、何も答えを得られずに1日が終わる――そんな経験のある人が多いのでは。
「その悩み、AIを使えばぜんぶ吹っ飛ばせます」。そう語るのは、これまでにグーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考に関する研修をしてきた石井力重氏です。古今東西の思考法、発想法を駆使してアイデア発想や問題解決をしてきた石井氏ですが、なんとそのほとんどはAIで実行できたと言います。そのノウハウを56の技法に凝縮してまとめたのが、書籍『AIを使って考えるための全技術』。この記事では同書から、AIを使って「人間の発想を刺激するアイデアを出す」ための技法を紹介します。

【お題】まったく新しい“プリンター”を考えてください――仕事ができる人が「AIを使って」一瞬で出した回答がスゴすぎた!Photo: Adobe Stock

AIを使って多様な視点でアイデアを生み出す技法「多様な特徴」

 1人で考えてきたけれど、斬新なアイデアが浮かばない。あるいはAIを使って発想してきたけれど、「そりゃそうだ」のお決まり案ばかりで、あまり創造的な広がりを見いだせない。そんなときにおすすめしたいのが、技法「隙のあるアイデア」です。

<AIへの指示文(プロンプト)>
 まず、特徴が異なる動物や生物を10個あげてください。次にその動物から連想できる特徴や機能を各10個あげてください。最後に、連想した単語と組み合わせて有益な機能を持つ〈アイデアを得たい対象を記入〉を7つ考えてください。

 複数人でブレインストーミングしている場においても有効です。「ちょっと推進力が落ちてきたな」「発想がマンネリ化してきたな」というときにAIでこの技法を使ってもらうと、発想の仕方が変わって、そこからの発展案だけでなく、またいろんな案が出てきます。隙があると、ツッコみたくなる。それが人間の本能なのです。

「インクジェットプリンター」を進化させる
アイデアを考えてみよう

 歴史があり、成熟したと思われる商材・サービスのブレインストーミングに、この技法を使ってみたいと思う人も多そうです。最初にAIからアイデアをもらって、発想を拡げてみましょう。

<AIへの質問>
 インクジェットプリンターに関して、隙のあるアイデア(=聞いた人がそこからいろんな派生案を思い浮かべられるほど、未成熟で、欠けのあるアイデア)を複数出してください。

 成熟した商品に対して人間がアイデアを考えようとすると、小さな改良になりがち。ジャンプしたアイデアにたどり着くための準備アイデアというか、ホップ・ステップ・ジャンプの「ホップ」をAIに考えてもらうイメージです。

<AIの回答>

 インクジェットプリンターの新商品に関して、隙のあるアイデアを考えるとすれば、次のようなコンセプトが挙げられます。

 

 環境調和型インクジェットプリンター

 コンセプト:このプリンターは、使用後のインクカートリッジを自動的に回収し、内蔵されたミニリサイクルユニットでインクを再処理して再利用する。ただし、この技術はまだ完全には確立されておらず、どの程度のインク品質が維持できるか、またどの程度コスト効率が良いかは未知数である。
 隙のある部分:再処理したインクの品質と、リサイクルプロセスのエネルギー効率が最大の懸念点。また、機械のサイズが大きくなりがちで、家庭用には不向きな可能性がある。

 

 感情認識インクジェットプリンター
 コンセプト:ユーザーの感情を認識して、その感情に合わせて印刷物の色調を自動調整するプリンター。たとえば、ユーザーが幸せなときは明るい色を、悲しいときは暗い色を使って印刷する。
 隙のある部分:感情認識技術の精度とプライバシーの問題。ユーザーが実際に求める色調と異なる場合の対処法も未開発。

 

 モジュラー式カスタマイズプリンター
 コンセプト:ユーザーが自分のニーズに合わせてプリンターの機能をカスタマイズできる。たとえば、写真印刷モジュール、高速テキスト印刷モジュール、3D印刷モジュールなどを自由に組み合わせられる。
 隙のある部分:モジュール間の互換性、安定性、コストのバランスが難しい。また、ユーザーがどのようなモジュールを必要とするかの市場調査も不足している。

 

 エコロジカル・インク生成プリンター
 コンセプト:空気中のCO2を吸収してインクを生成するプリンター。環境に優しく、インクコストを削減できる。
 隙のある部分:CO2を効率的にインクに変換する技術が未確立。また、高いエネルギーが必要となる可能性があり、エコフレンドリーと言えるかが問題。

 

 これらのアイデアは、現在の技術や市場の受容度を考慮せず、あえて「隙のある」状態で提案されています。そこからさまざまな改良案や新たなアプリケーションが生まれる余地を残しています。

さらに発想を「飛躍」させてみる

 手ごろな(?)「隙」のあるアイデアが出てきました。ですが、さらに欲張りたいときは、「もっと」の出番です。「もっと隙多め」でお願いしたらどうなるでしょうか?

<AIへの質問>
 いいですね。もっと隙の多いアイデアを出してください。

 隙のあるアイデアとは、ある意味で大胆なアイデアでもあります。手練れのアイデアパーソンは「どこからそのアイデア出てきたの?」と思ってしまうようなアイデアを軽々と出してきます。そうした突飛なアイデアをAIに期待しつつ、回答を見てみましょう。

<AIの回答>

 より隙の多い、かつ創造的なアイデアを考えるとすると、以下のようなコンセプトが思い浮かびます。

 

 時間反応型インクジェットプリンター
 コンセプト:印刷された文書や画像が、特定の時間が経過すると色や内容が変化するインクを使用するプリンター。たとえば、プレゼント用のカードに特定の時間になるとメッセージが現れる、または教材が学習進度に応じて段階的に情報を開示する。
 隙のある部分:時間経過によるインクの安定性や、時間調整の精度が未確立。また、この機能を実際に必要とするユーザー層の特定が難しい。

 

 音声活性化インクジェットプリンター
 コンセプト:音声コマンドに反応して動作するプリンターだけでなく、印刷された文書が音声に反応して色や形を変える特殊インクを使用。たとえば、特定の言葉を読み上げることで、教育用の資料が追加の情報を表示する。
 隙のある部分:音声認識の正確性やインクの技術的な実現可能性が問題。また、実用性やプライバシーへの影響も考慮が必要。

 

 バイオセンサー統合インクジェットプリンター
 コンセプト:ユーザーの生体情報(例:皮膚の水分量、体温、ストレスレベル)をセンサーで読み取り、その情報に基づいて印刷物の色や内容を自動調整するプリンター。健康管理やウェルビーイングをサポートするためのパーソナライズされた日用品や衣類、食品パッケージを印刷することが可能。
 隙のある部分:生体情報の取り扱いやプライバシーの問題、技術の精度や安全性が懸念材料。また、どの程度のカスタマイズが実用的かの判断も難しい。

 

 インタラクティブ壁紙プリンター
 コンセプト:家庭の壁に直接印刷できるインクジェットプリンターで、印刷された壁紙がタッチや音声に反応してデザインや色を変えることができる。季節や気分に応じて壁のデザインを変えられる。
 隙のある部分:壁への印刷技術の確立、インタラクティブ機能の持続性や耐久性、そして高コストなどが課題。

 

 これらのアイデアは、現実の技術的制約や市場ニーズを大きく超えており、実現には相当な研究開発と革新が必要です。しかし、その隙から新しい技術やアプリケーションが生まれるきっかけになり得ます。

 隙の多い(かつ創造的な)と、AIがわざわざ記載してくるところが面白いですね。AIも隙のあるアイデアからさらなる創発が生まれると認識しているのでしょうか?

「そんなのアリ?」な発想が、人の思考を興奮させる

 さて、AIの回答を見てみましょう。たとえば「音声活性化インクジェットプリンター」。音声入力技術はだいぶ進んできましたから、基本的な操作はそのうち音声でできるようになるでしょう。その上で、パソコン上でデータを変更しないとできない色の変更や調整まで印刷後に音声でできると、かなりのイノベーションかも。だいぶ未来技術っぽいアイデアですが、エッセンスから何か思いつきそうです。

 なお、上記の例では当初のお題設定がシンプルに「インクジェットプリンター」でしたので、家庭用のインクジェットプリンターの範疇からだいぶ離れてしまいました。「家庭用の」と一言追加しておけば、そこにフォーカスしたアイデアが出るでしょう。

「え、そんなのアリ?」という発想もありますが、「それがアリなら、こんなのも……」と、人間側の発想のハードルを下げられたらまずは効果あり。すべてのアイデア、あるいはアイデアに含まれる要素が使えなくてもかまいません。受け取った側が知的に興奮できるきっかけがほしいだけとも言えますから。

 人によって「反応するアイデア」も違うでしょうから、ある程度数があった方がブレインストーミングも盛り上がります。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)