「AIがすごいのはわかる。でも、実際の仕事では使えないよね――」。そう語る人は少なくない。AIを活用するどころか、“トレンド”として消費しているだけの人も多い。その一方で、「AIを使いこなす人」と「使えない人」の間で、能力や効率の差は見えないところでどんどん広がっている…。
この現実を、すでにAIを使いこなしている人たちはどう見ているのか。AIを「思考や発想」に活用するための書籍『AIを使って考えるための全技術』の発売を記念して、元起業家で、現在は大手ITベンチャー企業で生成AIの社内推進を担っているハヤカワ五味さんに話を聞いた(ダイヤモンド社書籍編集局)。

社内でたった1人の「生成AI頑張るぞ担当」
――これまで起業家として活躍されていたハヤカワさんですが、今は企業で生成AIの推進を担っているそうですね。
はい。昨年の7月から、ある大手IT企業に在籍しています。最初は新規事業関連でお声がけをいただいたんですが、話をしていくなかで「AIの社内活用を進めてほしい」という流れになりました。その当時は所属も肩書もなかったので「生成AI頑張るぞ担当」を自称していました。

2015年頭に株式会社ウツワを創業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、多数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、2024年7月に大手ITベンチャーにジョインし、生成AI利用の社内推進に尽力している。生成AIの利活用に関してSNSでも積極的に発信している。
チームができたのは最近のことで、入社から半年くらいは“ほぼ一人”。それまでも部署ごとにAI関連の開発やシステム導入を担当している人はいたんですが、会社全体としての方針や導入設計を担う人は、当時いなかったと思います。
ちょうど、自分としても10年ほど経営をやったあとで、「次はどこに行こうか」と考えていたタイミングでした。生成AIの分野は可能性があると思っていたので、未経験でこのような仕事をさせてもらえて幸運だと思っています。
「AI=翻訳ツール」という“冷ややかな空気”
――IT系企業というと、AIをうまく使いこなしている人が多い印象があります。実際はどうでしたか?
入社当時は、翻訳に使っている人が大半でしたね。次いで、エンジニアの一部がコーディングで使っていたくらい。それ以外の用途では、ほぼ誰も使っていませんでした。
一応、私の入社以前から生成AI関連の社内向けの動きはあったのですが、ツールを導入するに留まり活用には至っていなかったという認識です。
そのため当時は、いかにも“トレンド”という感じの見られ方が中心でした。画像や動画を生成して、「おお、かっこいい」「広告に使えるかも!」と盛り上がるけど、それが業務や事業、経営をどう変えるかという視点はなかった。
社内の反応も、「生成AIって流行ってるらしいね」くらいで。正直、VRやNFTと同じような、一時的なブームとして見られていた節がありました。
ほとんどの人がAIの力を「勘違い」していた
多くがそんな認識なので、生成AIに関する相談のうち、8割は生成AIの話じゃなかったんです。
――どういうことでしょう?
大半が「この作業ってAIで“自動化”できますか?」みたいな、いわゆる生成AI以前のDX系の内容でした。
もちろん、自動化にも意味はあります。でも、それって別に生成AIを用いなくてもできることが多いんですよね。コンテンツを“生成”できるという、そもそもの生成AIの本質があまり理解されていないんだなと痛感しました。
最近はようやく、そういう相談は3割くらいに減ってきましたが、それでもまだまだ多いですね。
もはやこれからは「AIが前提」になる
――たしかにAIを扱ったビジネス書も、多くは“仕事の効率化”に主眼を置いています。
エクセルのマクロ作成を依頼したり、資料を作ったりとかですよね。たしかに便利ですけど、それで働き方が本質的に変わるかというと、そうでもない。社員視点で見たら、効率化した分だけ、また新しい仕事が降ってくるだけですよね。
だから入社当初は「生成AIで仕事が楽になる」みたいな期待感はなくて、社内の多くの人が生成AIに冷めていたんです。
「生成AIってすごいけど、結局仕事には使えないよね」
「推進担当がまた来たけど、どうせ前と同じでしょ」
「生成AIって嘘つくから、逆に仕事増えるよね」
そんな空気感がありました。
たしかに、AIという言葉だけが独り歩きして、活用されないままトレンドが過ぎていくケースも多い。だからこそ「生成AIの本質は自動化だけじゃない」「これからの時代、AIを前提に仕事をしないとまずい」ということも、地道に共有していきました。