世間では「働き方改革」とかいわれているけれど、ぼくの会社は「昭和」から抜け出せていない。
早出、休出、深夜残業、サービス残業。そしてパワハラ、セクハラ、カスハラ。
どこにでもいる平凡な会社員の日常を描いた、5分で読める気軽なショートストーリーです。
通勤中や休憩時間に読んで、クスっと笑ったり、ホロっと涙ぐんだりしてください。
(この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です)

完璧にこだわるな
居酒屋で。先輩Lさん、後輩Zくんと。
「来週は有休を取って同期の3人でゴルフなんです」
梅酒ロックを片手に自分の予定を2人に伝える。
多分ニヤけてる。平日ゴルフは最高のぜいたくだ。
するとZくんが突っ込んできた。
「残業する人が有休を取るのはどうかと思いますけど」
「え?」
「仕事をキッチリ終えてから休むのがスジじゃないですか」
気まずい空気が流れる。
当時のぼくは仕事に追われて残業まみれ。
「お前はおかしい」と突きつけられる。
「なあ。その考えはおかしいぞ」
Lさんが割って入った。
ユーモア抜群で仕事もできる若手の兄貴分だ。
「でも…残業代はコストですよね」
Zくんは食い下がった。
「会社にコストを払わせて休むのはサボりですよ」
根は悪いヤツじゃないけど…この調子だから煙たがられる。
「お前は大事なことを見落としている」
Lさんはビールをグビッてから言葉を繋いだ。
「まずそれぞれ事情がある。両親へのお祝いかもしれない」
たしかに…そういうケースもある。
「でも、まひろさんはただの遊びですよね」
Zくんは食い下がる。ムキになって剛速球すぎる。
ちょっと悲しい。
Lさんは言葉を継いだ。
「そもそも“仕事が終わる”ってなんだ?」
禅問答みたいな質問がきた。
「それは…自分のタスクが終わることです」
「その考えがイケてない」
Zくんが黙りこむ。
思わず自分も質問した。
「仕事はいくらでもあるから終わりはないってことですか?」
「少し違う」
Lさんは首を横に振った。
「いいか、仕事が終わった、と考えるのは視野がせまい」
意味が分からずキョトンとする。
Lさんは続けた。
「5年先、10年先のための種まきも仕事だ」
たしかにそうだ。
「『完璧に終えた』なんて言うヤツは目先しか見ていない証拠だ。おれはそう思ってる」
目からウロコがドバッた。10年先まで「完璧」は無理だ。
Zくんは押しだまった。Lさんが諭すように続ける。
「目先の完璧にこだわるな。将来を見据えて動け。その方が成長するぞ」
Lさんは余裕がある人だった。
デキる人の心構えに20代のぼくは恐れ入る。
「生意気言ってすいません…」
Zくんがポツリと謝った。
クマみたいにでっかい体がシュンとしぼんでいた。
「よし、罰ゲームだ」
Lさんがニヤつく。
「な…なんですか?」
Zくんは不安げにLさんを見た。
「Z。お前は一緒にゴルフに行け」
「え、無理です。今は業務が忙しくて…」
Lさんはニヤニヤして
「知ってるよ。でもお前は肩の力を抜け。その方がうまくいく」
「は、はい…」
たしかに。Zくんは損をしている。
ガンコでマジメすぎるのだ。
Lさんは空のグラスを見て
「まだ飲むぞ。梅酒か?」
「あ、はい」
「すいませーーん。ビール2つと梅酒を1つ」
なんかカッコいい。
完璧にこだわるな
将来を見据えて動け
大人の働き方はコレだと悟った。
翌週。Zくんが加わった平日ゴルフ。
「飛距離には自信があります!」
自信満々のZくんを飛距離で負かしスコアでもフルボッコにした。
大人げなくても関係ない。
ナメンナヨ
(この記事は、『ぼくは今日も定時で帰る。仕事に疲れたあなたを癒す44の物語』まひろ(ダイヤモンド社)からの抜粋です)