複雑な人間関係を
図化する際のコツ

 実際、私が大学の授業で取り入れているのはそちらのほうが多く、たとえば複雑な人間関係を図にしてみることは良い方法です。授業のようにグループワークで意見を出し合うのも効果的ですが、ひとりでも問題なくできるトレーニング方法です。

 難解で複雑に絡み合った問題も、シンプルな図にすることですっきりとわかりやすくなります。「aとbが対立している」という前提があるなら、それを矢印や図形で表し、さらに別の人物であるcやdとの相関関係、あるいは背景にある事情も簡略化して図に落とし込んでいきます。こうすると、大人でもわかりにくい問題の中身が可視化され、子どもでも瞬時に理解できるようになります。

 コツとなるのは、問題のキーワードを拾い出す力です。ごちゃごちゃした一連の出来事から不要なものを排除し、必要なものだけを3つか4つ選び、関係性に沿って紙の上に並べていくことで、大きな流れは表現できてしまいます。

「羊羹(ようかん)を100字以内で説明せよ」→谷崎潤一郎の“答え”が芸術すぎてぐうの音も出ない…『最強の言語化力』(齋藤 孝、祥伝社)

 その際、余計な記号は絶対に入れないことが大事です。図版というものはシンプルであるがゆえ、逆に不要なものがひとつでもあるとそれが意味を成してしまいます。その点ではキーワード選びの取捨選択に精緻な判断が求められます。

 複雑な問題を人に説明するには、こうした図化する力と、細部をわかりやすく説明する言語化力が必要です。両方をうまく併用してアウトプットすることで、伝わりやすさは格段に向上するはずです。図版にシンプルさが求められるのと同様、いいまわしは冗長にならないよう、的確に短くまとめることが必須となります。

 文字と図を効果的に使い分けることで、情報伝達の精度と理解が大きく向上し、言語化力の向上にも繋がります。