和菓子の羊羹を奥深い表現力で
言語化した谷崎潤一郎

「日本の料理は食うものではなく瞑想するものである」という言葉を残したのは谷崎潤一郎です。

 著書『陰翳礼讃』の中で谷崎は、和菓子の羊羹(ようかん)について「玉(ぎょく)のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣(ふく)んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない」と述べています。豊かな感性と確かな言語化力があれば、羊羹でさえもここまで奥深く表現できるわけです。

 下の図-5を見てください。ここからどのような説明ができるでしょうか。会話での説明ですので、ここは完璧な文章でなくても大丈夫です。

「羊羹(ようかん)を100字以内で説明せよ」→谷崎潤一郎の“答え”が芸術すぎてぐうの音も出ない…同書より転載

 回答例「散らかっている部屋に若い男がひとり、ソファに寝転がっていて、寝ぼけたような表情をしていましたね。テレビはついたままで画面に『NO SIGNAL』と出てたので、映画でも観ながら寝落ちしちゃって、ふと目が覚めたという感じ。床には紙ごみやモノが散乱、ビール瓶がいくつか床に置いてあったので、酔って寝ちゃったのかな。なにしろ、壁に掛かっている絵も時計も傾いているし、花瓶の花も折れてるし。困った表情をしているように見えたけど、まぁ片づけようという気持ちは感じられなかったね。部屋全体が彼の心の状態を映し出していた感じですかね」

 このような説明であれば、20~30秒くらいで収まるのではないでしょうか。もしこれが1分という制限なら、「本が床に積み重なっていた」「だらしない性格なのに、絵を飾る気持ちはあるんだな」「クマのぬいぐるみも転がっていた」「花は白くてガーベラのようだった」「部屋で靴を履いてたのでアメリカ人なのかな」といった、より詳細な情報を加えたり、意図的にゆっくり話して尺(時間)に合わせたり、ということもしてみるといいでしょう。