タフなお願いをするときは「あなただから」を強調する
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

難しいお願いでも相手がやる気になってくれる「魔法のフレーズ」とは?Photo: Adobe Stock

「あなただから」を付け加えると、依頼が通りやすい

今回はメールやチャットなどで使える「依頼文の書き方」を紹介します。

① 「あなただから」を強調する

タフなお願いをするときは「あなただから」という理由を添えるようにしましょう。これは優秀な人だと、とても自然に使いこなしています。

たとえば、「庄子商事への提案資料、プレゼンがうまい永井さんにチェックしてもらえると安心なのですが、お願いできませんか」と声をかける。指名された永井さんも(忙しそうではあるものの)、「まあ仕方ないか」という表情を浮かべながら、どこか誇らしげに依頼を受ける。そういうシーンをみなさんも見かけたことがあると思います。

とくにうまいなと思うのは、その理由が具体的であるとき。
「いつも頼りにしているので」「経験が豊富なので」といった漠然とした理由では、形式的なお世辞にしか聞こえません。
そうではなく、しっかりと裏付けのある理由を示します。

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● ダイヤモンド・オンラインで連載されていた記事がとても学びが多く、今回ぜひその内容を講演でもお話しいただきたいと思いまして。

● これまで勉強会や交流会をリードした経験を生かせると思って、藤田さんにお声がけしました!
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こんなふうに理由を具体化して伝えると、相手も「自分の経験や知見が役立つなら」と前向きな気持ちになってくれるはずです。

ただし、いかにも取ってつけたような表現はやめましょう。

前の例でいうなら、「プレゼンの天才」や「プレゼンゴッド(神)」と言われると、心に余裕があるときは笑って流せるでしょうが、そうでないときだと「なに言ってんの、こいつ」と怒りたくなります。無理にお膳立てするのは避けましょう。

② 最後は「選択権」を示す

ぼくは依頼文を書くとき、最後によく入れている一文があります。

「もしご都合が悪ければ、別の方法も考えさせていただきます。」

たった1行ですが、これを入れるかどうかで、承諾率や返信率に大きな差が出ます。実際の編集の現場だと、こんな感じです。

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シーン1:原稿確認スケジュールの調整
原稿のご確認は21日(金)までにお願いできますでしょうか。もしご都合が悪ければ、分割でお戻しいただくなど、別の方法も考えさせていただきます。

シーン2:インタビューの依頼
90分ほどお時間をいただきたく存じます。もしご都合が悪ければ、メールでの質疑応答など、別の方法であっても、ぜひお話をおうかがいできたらと思っています。
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このように具体的な代替案まで示すと、たとえ第一案が難しい場合でも、なんらかの形で協力してもらえることが多いんです。

実際、ある著名な経営者から「この一文があるから、けっこう無理なお願いでも前向きに検討する気になれる」と言ってもらったこともあります。

なぜこれほど効果があるのか。『影響力の武器』の著者ロバート・B・チャルディーニは、人は選択を強制されると「心理的リアクタンス」と呼ばれる拒否反応を示すと指摘しています。つまり「やらなければならない」と感じると、それだけで抵抗感が生まれてしまうわけです。

でも「別の方法も考えさせていただきます」という一文を加えることで、
● この依頼は強制ではない
● 相手の状況を第一に考えている

というメッセージを伝えることができます。

さらにこのような選択肢を文章化することで、自分自身も「代替案で進む可能性がある」という心構えができ、より柔軟な姿勢でコミュニケーションをとれるようになるはずです。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。