文章においてテクニックよりも大切なこと
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

【あるある】悪意がないのに読み手をイラつかせる「察してさん問題」とは?Photo: Adobe Stock

相手に配慮しすぎる人は逆にうざがられる!?

みなさんの周りに「感じよく伝えようとしすぎて相手を不快にさせてしまっている人」はいないでしょうか。

「こう言ったら大石さんは怒りそうだな」
「社長から言われたことをそのまま書くと傷つくかもしれないから婉曲的な表現にしよう」
「みんなに考えてもらいたいから、あえてこう書いておこう」

いずれも他者への配慮であり、本来であれば文章をよりわかりやすくするために有効に働くものです。

ところが現場では、不評、というかストレスの温床になっているケースも珍しくないようです。いわゆる「察してさん(相手のことを考えすぎるあまり、かえって文章をわかりにくくしてしまう人)」問題です。

本書の執筆にあたって実施した1,000人調査でも、「どんな文章に対してストレスを感じますか?」という質問に対し、「オブラートに包みすぎてまわりくどい(気をつかってくれるのは有り難いけれど遠回しすぎる)」という回答が多く見られました。

ただ、「察してさん」問題の難しいところは、本人は自身が「察してさん」であると気づいていないことです。
相手のことを気づかってマイルドに書いているつもりであり、それが読みづらさやストレスにつながっているとは想像していない。そういうケースが多い気がします。

これはなにもメールやチャットに限った話ではありません。SNSやブログなどでも「読者のために書いているけれど、逆に読みづらくなっている文章」を見かけることがあります。

たとえば、こんな文章です。

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私見ではありますが(というか、みなさまのお考えもあるかと思いますので…)、この件に関しては、ある程度の方向性が見えてきたような気がします。
とはいえ、まだまだ議論の余地がありそうな部分も多々ありますので、ぜひみなさまからのご意見もいただけますと幸いです…。(色々な捉え方があると思いますが)
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ていねいな姿勢は伝わるものの、なにを伝えたいのかが判然としません。謙遜表現が過剰で、言い回しも全体的にあいまいです。

それに、かっこ書きも多い。たしかに文章を書いていると仮想の読者の声が聞こえてきて、かっこを使って一人二役を演じたくなることはあります。ですがこの短い文章で、しかも同じような内容を書くのは賛成できません。

おそらくこの文章を書いた人は「私のことを理解してくれている読者なら、これでも察してくれるだろう」と思っているのではないでしょうか。

もちろん「伝わる人にだけ伝わればいい」というスタンスを否定することは誰にもできません。

でも、より多くの人に読んでもらいたいなら、こまかい文章テクニックよりも、まずは「読者に対して過剰に配慮していないか?」という視点をもっておくべきではないでしょうか。
過剰に配慮している文章は、読み手に多大なるストレスを与えるのです。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。