印象がいい「依頼文」に共通する2つのポイント
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

お願い上手な人は「でも」ではなく「すみません」を使う。その意外な理由は?Photo: Adobe Stock

お願いするときは「理由」と「過去の文脈」をセットに

今回は、編集者として日常的に難しいお願いをするなかで身につけた、依頼文の書き方を紹介します。

① 「理由」と「限定」を組み合わせる

アメリカの心理学者エレン・ランガーの実験によると、依頼に「理由」を添えると承諾率が大きく向上することがわかっています。

たとえば、コピー機の前で「すみません、先に使わせてもらっていいですか?」だけだと承諾率は60%。一方で「すみません、先に使わせてもらっていいですか? 急いでいるので」と言うと、承諾率は94%まで上がるそうです。

「急いでいるので」なんて大した理由にならないようにも思えますが、たったそれだけでも効果があるということですね。「5分後の電車に乗らなくちゃいけなくて」なんて理由を詳しくしたら、より承諾率が上がりそうです。

そして「理由」にもうひと工夫を加えると、より効果的になります。
たとえば次の2つの依頼文、どちらが受け入れやすいでしょうか。

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【A】来週の会議資料をチェックしていただけますか。前回、冒頭の説明がわかりにくいとご指摘いただいたので、ご意見を頂戴したく思います。

【B】来週の会議資料、導入部分だけチェックしていただけますか。前回、冒頭の説明がわかりにくいとご指摘いただいたので、ご意見を頂戴したく思います。
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どうでしょう。Bのほうが受け入れやすいと感じませんか。

理由は2つあります。Bは「導入部分だけ」と限定することで、相手の心理的負担が減ること。そして、その部分に焦点を当てた理由が「前回の指摘事項」と一貫していることです。

このように単に理由を加えるだけでなく、「①依頼内容を限定する、②過去の文脈とひもづけて伝える」の2つを意識すると、より承諾率が高まるはずです。

②「でも」を「すみませんが」に変える

「相手を肯定してから依頼する」というのは、多くの人が経験的に身につけているテクニックです。
ただし、「でも」や「ですが」は要注意。この言葉を使いすぎると、せっかくのほめ言葉が打ち消されたような印象を与えかねないからです。

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【A】企画書、とてもよくまとまっていますね。でも、導入部分をもう少し工夫したほうがいいかもしれません。

【B】企画書、とてもよくまとまっていますね。すみませんが、導入部分をもう少し工夫していただけませんか。
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ぼく自身はAでもBでも気にならないのですが、Aをネガティブにとらえる人がいることを知って以来、こうした書き方は基本避けるようにしています。

あるベストセラー作家から「編集者との付き合いは2冊目になると難しくなる」と言われたことがあります。

なぜか? 理由を尋ねると「最初のうちは『ここがすごくいいですね』とほめてくれるのに、慣れてくると『いいんですけど』や『でも』という言葉が増える。そうすると段々と、『自分はこれまでお膳立てされていただけで、じつは文章が下手だったのではないか』と不安になる」とのこと。

この言葉は予想外というか、驚きでした。そうか、そう思うのか。

ただ、これって恋愛でも同じなのかもしれませんよね。付き合いたての頃は毎日「かわいいよ」「素敵だね」ってポジティブな言葉ばかり口にするけど、月日が流れると「服はいいと思う。でもバッグと合ってないよね」とか「好きに食べればいいと思うけど、なんか顔がふっくらした?」なんて言うようになる。

「でも」とか「だけど」という接続詞があると、たとえその前で肯定していたとしても、それまでの評価が形式的なリップサービスのように感じられてしまう。つまり信頼関係が揺らいでしまうわけです。

それと比較すると、たしかに「すみませんが」とか「恐れ入りますが」には、
● よりよくするためのお願いをしている
● お願いをすることへの申し訳なさがある

という2つのメッセージが含まれている気がします。

ただ多用すると、「悪くもないのに謝罪するなんておかしい」と思う人もいるので注意が必要です。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。