「勉強ができることが全てではない」という
当たり前のことをどう学ばせるのか?

渋田 小学6年生までの通塾で、子どもたちの多くは「偏差値は高く、テストの順位は一つでも上が良い」という価値基準の下、頑張らざるを得なかった。入学後、それをどう壊していきますか。

西村 実は入学後最初の定期試験までは、席次を一切知らせません。そうするとどうなるか。

 部屋を上手に片付ける子、洗濯を手際よくやれる子が、「お前、すごいな」と言われる。あるいはスポーツや、リーダーシップを発揮する子がすごいということになる。最初に勉強以外のいろいろな「ものさし」ができるんです。

 親から離れてゼロから生活すると、勉強ができることは数ある特徴のひとつでしかなく(もちろん勉強ができて役に立つことも多いので、勉強ができることもすばらしいのですが)、ものさしが無数にあることがわかる。

 その経験が非常に大事で、自分の得手不得手や特徴もわかって、どのものさしで勝負するか、あるいは足りないところをどう伸ばすかを自分なりに考えていく一歩になる。勉強しかできなかった子はそれ以外のことを頑張らなくてはと思うし、勉強が苦手な子は勉強もできなきゃだめだなと思う。

「管理職はコスパ悪い」「リーダーは損」な世の中で、校長先生が言うのをやめたNGワードハウスイベントの夏祭りで、すいか割りを楽しむ生徒たち 写真提供:海陽学園

自主性にまかせた
イベント企画

渋田 寮生活での行事やイベントもユニークです。

西村 生徒が企画書を書いて、土日にいろいろなイベントを実施しています。普通の学校では、学校行事は失敗が許されませんが、土日の行事は失敗してもいいのです。

 あるとき、中1が「鬼ごっこ」の企画を出して1時間1本勝負でやることになりました。しかし、学校の敷地は東京ドーム2.8個分の広さがあるため、隠れた子をほとんど見つけることができずに1時間が終わってしまったという、ある意味「大失敗」を喫することになりました。

 また「焼き芋をやろう」と言っても、葉っぱを集めただけでは火がつかないことも学んだりします。

 ハウスマスターやフロアマスターは失敗することがわかっていても、安全面で問題がなければあえてアドバイスしません。そして、行事はやりたい人だけが参加するものではないという運用にしています。

 というのも、社会に出れば、さまざまなしがらみもありますし、仕事でも家庭でもやりたくないことはやらないというわけにはいかない。やりたくないこともやることこそがまさに社会の縮図ですから。