「最強の赤字商品」 中国チェーンのソフトクリームPhoto:NurPhoto/gettyimages

 ビジネススクールの学生はロスリーダー(目玉商品)という概念について学ぶ。これは、店舗が顧客を引き付けて利益の出る商品を購入させるために、損失を出して販売する商品のことだ。

 数十年にわたり、米会員制倉庫型量販店コストコの1.50ドル(約220円)のホットドッグとソーダ飲料のセットほど良い例はなかった。この伝説的な商品は年間1億3000万個も売れている。

 しかし太平洋の向こう側で、新たな王者が現れた。それは高くそびえるソフトクリームで、通常40セントで販売され、年間約7億個が販売されている。

 このソフトクリームを手掛ける中国の蜜雪氷城(ミーシュエ)は最近、店舗数で世界最大のファストフードチェーンとして米大手マクドナルドを上回った。店舗の大半はアジアで展開している。同社は赤字を出して利益を上げるという現代のビジネス手法を完成させることで、この成長を実現した。

 ミーシュエは単にコストコの戦略を模倣しただけではなく、コストコがホットドッグで採用する三つの戦略に独自の工夫を加えた。コストコと同様、ミーシュエがこの戦略を成し遂げられたのは、大規模なサプライチェーン(供給網)の効率化を極めたからであり、そのことは最近の利益急増によっても示されている。

 ミーシュエの取り組みは以下の通りだ。

1)ハイ・ロー価格戦略

 ロスリーダーの典型的な例がハイ・ロー価格戦略だ。商品を赤字価格で販売し、可能であれば店舗の奥に配置する。コストコは別の有名なロスリーダーである4.99ドルのロティサリーチキンでこの戦略を実践している。

 ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのバーバラ・カーン教授(マーケティング)は「目玉商品を買いに行くと、他の商品も購入する可能性が高く、それらの商品は通常、より高いマージンで価格設定されている」と説明した。

 ミーシュエの場合は小規模な店舗が多いため、顧客を商品陳列の迷路に誘導することはできない。その代わり、アイスクリームをメニューの一番上に置き、その下に利益の出る商品を約35種類並べている。

 ソフトクリームの価格はアジアの多くの地域で約40セントだが、オーストラリアやシンガポールなどの裕福な国ではそれ以上の価格となっている。ベトナムの首都ハノイでは1万ドン(約38セント、55円)だ。しかし、シロップとフルーツを追加してサンデーにアップグレードすると95セントになる。

 ミーシュエはソフトクリームを看板商品と呼んでいるが、飲料の販売数の方がはるかに多く、昨年は70億杯以上を売り上げた。飲料の価格は通常1ドル前後だ。

 ハノイでミーシュエのフランチャイズを展開するドー・トゥトゥイ氏は、開業前にきょうだいから「1万ドンのソフトクリームを売って、いつ採算が取れると思うのか」と聞かれたと話す。彼女の答えは、ソフトクリームは集客のためで、他の商品で利益を上げるというものだった。