
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第27回では、「直感」をきっかけに飛躍したグローバル企業について解説する。
「ムカつくヤロー、ぶっ潰してやる」
新事業であるTシャツ専門店の1号店をオープンさせるべく、東京・渋谷で店舗探しをする主人公・花岡拳。人気のアイスクリームショップが規模拡大のために移転すると聞くや否や、その店舗を借りることを決断する。
その一方で、花岡たちの過去のビジネスにおいて、数々の嫌がらせをしてきたライバル・一ツ橋物産の井川泰子はアパレル部門に異動し、自社が買収したイタリアンカジュアルブランドの日本展開を準備していた。
しかし部下の高野雅人を通じて花岡たちの新事業を聞き、同ブランドでTシャツの展開を大幅に強化。花岡たちと同様のコンセプトを打ち出して、渋谷への出店を計画する。
見かねた高野が井川に「ビジネスと私情を混同しない方がいい」といさめるが、井川は意に介さない。それどころか、邪悪な笑みを浮かべて高野にこう告げるのだった。
「ビジネスなんてバリバリ私情…個人的感情でやるものよ。経済動向とか消費環境の分析とか…そんなものでビジネスをやるものなんて面白くもなんともないでしょ」
「私情感情でやるからワクワクするのよ。燃えるのよ。あの…ムカつくヤロー、ぶっ潰してやる…ってね」
街のコーヒー豆店をグローバル企業に飛躍させた「直感」

「花岡憎し」が原動力となっている井川が正しいかどうかはさておき、誰もが知る大企業も、成長のきっかけが「データドリブン」ではなく「感情ドリブン」だったケースというのは少なくない。
コーヒーチェーン店として、日本でもその名を知らない人はいないと言っても過言ではないスターバックス。
もともと1970年代にコーヒー豆の販売店としてスタートした同社は、中興の祖であり、のちの会長兼社長であるハワード・シュルツの入社を契機に大きく飛躍することになる。
シュルツは出張時に出会ったイタリアのエスプレッソバー文化に感動し、米国に持ち込みたいと、いわば直感で決断。当初は経営陣から「米国にそんな文化は根付かない」と否定されつつも、なんとか今のスターバックスの原型となるエスプレッソバーをオープンさせた。
しかしその後、経営方針の違いからシュルツは会社を離れ、自身でエスプレッソバーを展開することになった。そして最終的に当時の経営陣からの提案もあって自らの会社でスターバックスを買収。グローバル企業へと発展させることになった。
もちろんその成長にはデータドリブンなマーケティングなども大いに寄与したわけだが、つまるところ原動力となったのは、当時の経営陣を説得してまで事業を拡大したシュルツの直感だったわけだ。
またもや井川の嫌がらせで苦境に陥る花岡たち。頼みの綱だった大手広告代理店・電広堂の中谷との関係も急変する。

