また、トヨタがジスプロシウムフリー磁石の開発に成功し、中国依存度を低下させるなど、日本企業が持ち前の技術開発力でレアアース使用量の削減を急ピッチで進めたことは、世界的にも注目を集めた。

 これを受けて日本政府はレアアースの国家備蓄制度を創設し、官民で戦略的備蓄を行い、今後のレアアース制裁のリスクに対応することとなった。また、戦略物資を中国に依存することがいかに危険であるかという認識が高まったことは、有意義だったと言っていいだろう。

 日本、アメリカ、EUは共同で2014年、中国のレアアース輸出規制をWTO(世界貿易機関)に提訴し、中国の輸出制限が不当だったとの判断を勝ち取った。これにより、中国は輸出枠制度と輸出関税を撤廃せざるを得なくなった。

 中国は「レアアース外交」の失敗を受け入れざるを得なかった。このときの日本側の一連の対応は見事なものだったと言っていいだろう。その背景には、日本がまだレアアースの精製技術を保持していたことも大きかった。

「レアアース」と
「レアアース磁石」の違い

 上記で「レアアース磁石」という言葉を使っているが、ここでいちど基本に立ち返り、レアアースとレアアース磁石との区別を明らかにしておきたい。

 レアアースとは、ネオジムやサマリウムなどの希少金属元素のことで、中国が特に戦略的に管理しているとされるのは、次の7つである。

ネオジム(Nd):高性能磁石の素材
プラセオジム(Pr):磁石や航空合金に使用され、Ndと共に用いられる
ジスプロシウム(Dy):磁石の耐熱性を高める
テルビウム(Tb):磁石の補強や蛍光体、ディスプレイに使用
サマリウム(Sm):高温耐性を持つサマリウムコバルト磁石に使用
イットリウム(Y):レーザー、超伝導、蛍光体の材料
ガドリニウム(Gd):医療用造影剤や磁性冷却材などに使用

 このうち、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウムの5元素は、高性能な永久磁石の原料として特に重要である。

 つまり、「レアアース磁石」とは、これら5つの元素を用いて作られた永久磁石、あるいはそれらの元素自体を指す場合もある。