技術的に最も難しいとされているのは、レアアースを磁石に加工する工程だ。採掘した鉱石から金属を分離し、純粋なインゴットにし、そこから磁石を製造するという一連の工程は、現在のアメリカ国内では事実上不可能になっている。

 アメリカでは新興企業のフェニックス・テイリングズ(Phoenix Tailings)が精製に取り組んでいるものの、年間40~200トンという規模にすぎず、まったく間に合っていない。

レアアース磁石の米中交渉で
鍵を握る日本の技術力

 トランプ政権は戦略的にレアアース供給網の再構築を目指しているが、それには長い時間と巨額の投資が必要だ。

 レアアースの処理工程は極めて複雑で、化学的知識と高度な技術が求められる。中国はこの点でも抜かりがなく、国内39の大学でレアアース化学の専門課程を設け、技術者の育成体制を整えている。

 それに対して、アメリカでは中国のようなレアアースの教育・開発体制はほとんど整っていない。

 特にレアアース磁石の精製には有害物質が出るため、環境規制も大きなハードルとなる。国土の広いアメリカでも、再び国内で製造体制を整えるのは容易ではない。

 2010年に日本が経験したレアアース禁輸によって、この問題が安全保障に直結することは明らかになっていたが、米中間の産業構造が密接だった当時は、対応が難しかった面もある。

 だが、EV、再生可能エネルギー、半導体、軍事兵器といった最先端産業を支えるレアアース磁石を、いまだに中国に依存していることは、明らかに戦略的失敗だろう。

 現在、世界はグローバル化の反動期に入り、経済主権の回復が求められている。その中で、レアアース磁石は「中国最大の戦略物資」として浮上している。

「脱中国依存」を進めるには、レアアース磁石を自国で作るしかない。しかし、それが難しいアメリカにとって、技術力をまだ保っている日本こそが鍵を握っている。

 日本政府が「レアアース磁石の対策でアメリカを全力でバックアップする」と約束すれば、関税交渉も有利に進められるはずだ。全面対決になりつつある米中貿易戦争だが、その鍵の一つを日本が握っていると言っても過言ではない。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)