イノベーションのカギはデータ蓄積

 AI時代のデータマネジメントについて、いまだ最適解と呼べる方法は確立されていない。しかし、一つ確実にいえることは、今すぐデータを積極的に蓄積し始めるべきだということだ。

 データの種類と量は、AIの予測精度に直結する。日々新たなデータが生まれているが、適切に保存されなければ容易に失われてしまう。そして、一度失われたデータは、二度と再現できない。現実には、価値ある情報が継続的に生成される一方で、記録されないまま消えていく。こうした機会損失をどれだけ防げるかが、AI時代の競争力を左右する分水嶺となる。

 さらに、これまで扱われてこなかった新たな種類・領域のデータの蓄積が、AIの進化を加速させる。AIが業務の中で生み出す活動データそのものが、次第に戦略的な価値を帯びてくる。そして、AIに最適化されたデータ蓄積が飛躍的に進んだとき、新たなイノベーションが起こるだろう。

 データの量と質がイノベーションの可能性を決定づけるのであれば、我々は一刻も早く、新たな視点でのデータマネジメントに取り組まなければならない。

 

データに戦略的価値を持たせる

 AIの学習効果を最大化するには、自社データを余すことなく活用する必要がある。そのためのヒントは、ビッグテックのAI進化の過程に見出せる。Appleはスマートフォンの操作ログを、MetaはFacebookやInstagramでのユーザー行動を、Amazonは購買行動を分析し、それぞれのサービスを絶えず進化させてきた。

 我々はこうした先行企業から学び、自社のあらゆる業務に伴うデータを自らの資産として保持し、AIを育てる必要がある。デジタル資産や業務装備は、単なる記録ではなく、戦略的価値を持つものと捉え直すべきである。

 そのためにまず必要なのが、「データの要不要の分別」である。大規模言語モデルの登場により、AIが必要とするデータの種類も量も飛躍的に増大した。AIに何をさせたいかによって必要なデータは異なるため、どのデータを収集・蓄積すべきかを見極め、適切かつ安全に管理するためのデータマネジメントが不可欠となる。

 あわせて、これまで重視されてこなかった環境や行動に関するデータの収集も急務である。レポート、議事録、ボツになった企画書、失敗事例など、記録はあっても体系化されていないデータ群が業務の裏側に多数眠っている。これらは従来ほとんど活用されてこなかったが、今後はAIの精度向上に不可欠な価値を持つことになる。

 これからのデータマネジメントには、日々の企業活動から生まれるあらゆる情報をデジタルで記録し、AIが理解できるよう関係性に意味づけを行い、つながりのある情報体系として整理するという視点が欠かせない。

 

企業変革を推進するリーダーシップ

 これまで3回の連載で述べてきたとおり、AI時代に企業が生き残るには、抜本的な企業変革が不可欠である。組織体制の刷新はもちろん、働く人々の意識も大きく転換しなければならない。

 企業変革をいかに進めるか。本書では、生成AIの導入と活用に至るまでの構造的アプローチを含め、Ridgelinezが実践している変革手法を紹介している。そのまま活用することも、各企業に応じて柔軟にアレンジすることも可能である。

 いずれの方法を選ぶにせよ、AI時代に企業が直面するのは、従来の常識を覆すエポックメイキングな変化である。こうした前例のない試みには、多くの企業がリスクを恐れ、無難な選択に流れやすい。しかし、真の変革を実現するには、社員の意識を根底から揺さぶり、変革を牽引する強いリーダーシップが不可欠だ。そして、その旗振り役を担うのは、他ならぬトップマネジメントである。

 ときに、ビジネス環境の変化や技術革新によって、進行中の施策を見直さざるを得ないこともある。だからこそ、トップは率先して迅速に決断を下す姿勢が求められる。

 方針を定め、決断し、その結果に責任を負う──。トップマネジメントの役割は、基本的には従来と変わらない。しかし、いま求められる方針の方向性は過去とは大きく異なる。その転換点において、組織を導くリーダーシップを発揮できるかどうか。そこに、人間としてのマネジメントの本質が問われている。

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野村昌弘
Ridgelinez株式会社 上席執行役員 Partner, Business Science Practice Leader
流通業、製造業におけるSCM改革、業務改革、IT戦略コンサルティングを多数手掛ける。富士通の経営戦略室にて経営戦略策定業務に従事。主として事業戦略立案、成長戦略立案業務を担当。近年はBusiness Science Practiceをリードし、生成AIの活用をはじめとするデータ活用型企業への変革に向けた多数プロジェクトを推進している。