ネクタイを締めるビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

ガンダムのマ・クベはジオン公国軍の大佐でオデッサ駐屯部隊を率いる立場にありました。彼が死に際に副官に告げた「あの壷をキシリア様に届けてくれよ。あれは、いいものだ」というセリフはあまりにも有名です。彼の上司への忠誠心と、己の役割の中で育んだ哲学や美学がここから読み取れます。総中間管理職時代、私たちは組織人として、どう振る舞えば自身のキャリアやチームのビジネスによい効果をもたらすかを意識する必要があります。

※本稿は、音部大輔、田中準也、豊後祐紀著『ガンダムでわかる現代ビジネス』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。

組織における“役割”と“自我”を考える

 組織人とは「組織に忠誠を誓う人々」とされていますが、組織に忠誠を誓うといってもさまざまです。働き方が多様化している現代では、組織に属さずに仕事をする「プロフェッショナル(仕事人)」も少なくありません。

 一方で何かしらの組織に所属している場合は、レポートライン(いわゆる報告・連絡・相談のコミュニケーション・フロー)内で、自分が上司(先輩)だったり部下(後輩)だったり、同時にいろいろな立場にあります。一億総中間管理職時代といえそうです。

 この場合、どんな振る舞いが自身のキャリアやチームのビジネスによい効果をもたらすでしょうか。

 組織のメンバーの一人ひとりに、部下の側面と上司の側面があります。たとえ社長であったとしても、株主や投資家には上司に対するのと似た接し方をすることも多いでしょう。

 また、組織図上は直接の部下がいなくても、指導する相手として後輩を持つ人は少なくありません。組織人の多くは上から下まで誰かの部下や後輩で、誰かの上司や先輩です。加えて、似た階層にある同僚、斜め上、斜め下などと日常的に関係を持って活動します。

 さらに、それぞれ組織全体だけでなく、部門や部、課や室といった、より小さな部分に帰属しています。社内では、社員というよりも部員や課員の立場や役割に注目されがちです。このように多くの人の自我は多義的で、随時、さまざまな役割や帰属先などもふまえつつ、複数の自我のバランスをとりながら働いています。

 ところが、ひとつの自我だけが色濃く現れる人もいます。例えばマ・クベはジオン公国軍の大佐でオデッサ駐屯(ちゅうとん)部隊を率いる立場ですが、隊員たちの上司という立場よりもキシリアの直系の部下としての自我が圧倒的に強そうです。

 常にキシリアへの忠義を貫いているのは、自身の立身出世の野心のためともとれますが、好意的に捉(とら)えるなら彼固有の組織人としての美学や哲学によるものかもしれません。あの有名な「いいものだ」と言われる壺(つぼ)は、キシリアへの忠義だけでなく、自身が大事にしている美学も象徴しているように思われます。

 組織ではなく個人への忠誠を強要するのは劇中ではあまり見られませんし、現代の多くの組織でもいささか奇異なことです。とはいえ、そうした上司は今でも存在します。老いつつも重要な立場にいて、極端な忠義を要求するかもしれません。

 資源の有限性を鑑(かんが)みれば、個人的な忠誠を強要するのは効率的でも建設的でもなさそうです。