「無敗のプロ雀士」が町の大会でわざわざ25位の景品を狙うワケ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

無敗の雀士として知られる桜井章一氏と将棋棋士・羽生善治氏という稀代の勝負師二人が対話を通して、これからの不透明な時代を生きていくために必要な「運」と「ツキ」を自在に操り成功を手に入れる技術を明かす。※本稿は、桜井章一『運を引き寄せる成功の極意』(ポプラ社)の一部を抜粋・編集したものです

利益より、場の動きを優先させる

羽生善治(以下羽生):勝負には際どい局面が必ずあるものですが、そんな状況を積極的に楽しんでやろうという雰囲気の対戦相手はこれまでいましたか?

「無敗のプロ雀士」が町の大会でわざわざ25位の景品を狙うワケ無敗の雀士として知られる桜井章一氏 写真・野辺竜馬

桜井章一(以下桜井):そういう匂いのある人もいましたね。わざと危険なほうに向かっていく。そういう人を見ると、やっぱりすごいなと思う。逆に自分を安全な位置に納めていく人を見ると、たいしたことはないなと感じます。自ら火中(かちゅう)の栗を拾うようなことをやってくる人はすごい打ち手です。

 麻雀は、2人ではなく4人でやるものです。弱い人がやけどしそうになったときに、その人がやけどするよりは、自分がやけどしたほうが実力が動き出すときがあります。そんな、この人の代わりに自分がわざと振り込もう、という場面もある。そうすると、強い相手だとそれを先にやられてしまうんですね。

羽生:それはお互いに分かっていてやっているのでしょうか?

桜井:なんとなく空気が伝わってくるので、その相手と私の二人だけにはすぐに分かります。「ああ、俺もやろうと思っていたら、先にやられてしまった」と。側で見ていると、ずいぶん損なことにも見えるのですが、勝負には、「損して得取れ」という局面もあるのです。

 ところが、それはふつうの人にはなかなか分かりません。損は損だと思っているから、わざと損はできない。また、「損をすれば得が来る」と頭では分かっていても、わざと損をするのはやはり難しい。だから「ここで損しておかないと得は来ない」と知っていて、あえて損ができる人こそ、手強いということです。

 ところで将棋にも、「火中の栗を拾う」という感覚はありますか?