羽生:損して得を取る感覚はすごくよく分かります。対局をしていて、一見この指し方は損をするけれど、その一局のあとのほうで得をするな、と分かるわけです。でも、いつ得をするかは分かりません。それでもいつかは得をするのだろうなと思ってやっています。
桜井:羽生さんはそれをセンスでされているんでしょうね。意識的にわざとやっても逆効果ですから。
羽生:しかし、「今、損をしたほうがいい」というタイミングは、つかめるものでしょうか?
桜井:そのときになると分かりますね。「こいつに今、損をさせたら、卓上に乗らなくなって脱落してしまう」と。4人で打つ麻雀では、弱い相手も活かしていかないと試合になりません。
「もしこいつが当たり牌を打ってしまったら、ボロボロになってもう立ち上がれない。じゃあ俺がケガをして、こいつを助けてやろう」と思って、先に他の人の当たり牌を切る。そうすると卓上が動く。卓が動けば、もともと実力がある者、強い者、地力がある者が結局は勝つんです。
麻雀は実力制度ではない
羽生:そういう場のときには、自分の利益よりも4人のいる場の動きを優先させるのが良いのでしょうか? そして、そうできる人が強いということですか?
桜井:そうですね。場が良くなって良い打ち方ができるのなら、その人には良い場が合うということ。逆に場が壊れると、壊れた場に合う人が勝ちます。
将棋などと違い、麻雀は実力制度ではありません。ずるい場になれば、ずるい人たちの中で一番ずるい人が勝つ。あるいは弱い場、いわゆる駄目な場になると、駄目な人が勝つのです。
面白いのは、麻雀では、その得がすぐ出る場合もあれば、東場でわざとやった損が、南場に入って得になって出て来るような場合があることです。「ああ、南場でのこの流れは、東場で打ったあの一打のおかげだ」と。
それに気づくかどうかは、センスの問題ですね。そして、それが勝負のアヤというものかもしれません。何かやったことが、一見、損に見えるかもしれないけれど、そのアヤが、あとでいい形で現われるかもしれない、というように。
羽生:得というのは具体的には、チャンスが来るという感覚ですか?
桜井:我々はチャンスが来るというよりは、「いい感じだなあ」と思いますね。ピンチだと、「なんかかったるいな」と。そういう感じです。あまりピンチやチャンスだと思うのではなく、「いい感じ」「かったるい」と、感覚でとらえています。