【マンガ解説】「麻雀は人生の縮図」小2で牌を握った私が知った恐ろしすぎる魔力『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第61回は、前回に引き続き「麻雀」の魅力を深掘りする。

「麻雀をやると人が変わる」ワケではない

 道塾学園投資部の伝統の合宿で、メンバーは早朝からランニングと筋トレ、夜は麻雀漬けの日々を送る。投資成果の報告ではOBから次々にダメ出しされ、正座やバケツを持って立たされるなど理不尽なしごきを食らう。

 麻雀は人生の縮図――これは小2で牌を握った私の持論だ。投資部の合宿で麻雀をやりこむのは、バカバカしいようで理にかなっている。ギャンブル全般に言えることだが、特に麻雀は恐ろしいほどその人の本性を浮かび上がらせるからだ。

 経験者なら、クラスの優等生が無謀な大物狙いの打ち手になったかと思えば、普段は豪傑気取りの先輩社員が雀卓ではビビり体質になる、といったギャップや豹変に心当たりがあるだろう。

 牌を操る仕草や表情の変化にも性格がもろに出る。「麻雀をやると人が変わる」のではなく、勝負に夢中になるうちに本性がむき出しになってしまうのだ。昭和な時代には、社員の器を見極めるには麻雀が最適と語る経営者は少なからずいた。

 投資部が挑んでいる短期売買とゲーム性で通じる部分もある。視界不良のなかでリスクとリターンのバランスが絶えず変わり、トレードオフの連続に直面する。メンタルの安定が成否を決める。そして、運に見放されれば、最良の選択をしても勝ち目はない。そんな特性はそのまま人生全般にも通じる。私が「縮図」と考えるゆえんだ。

 最近は競技麻雀Mリーグの隆盛などの影響で若い世代に麻雀がブームのようだ。人生を学べる素晴らしいゲームの復活は大変喜ばしい。

体にいいことは、脳にもいい

漫画インベスターZ 7巻P183『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 合宿でランニング、腕立て伏せ、腹筋といったフィジカルトレーニングを課すのも、しごきという側面があるとしても、合理的なメニューだ。私は脳や認知科学に長年興味があり、それなりの数の本を読んできたが、実用性の高さという点でもっとも有益な一冊は『脳を鍛えるには運動しかない!』だと考える。

 同書は、学習や不安、うつ、認知症、セルフコントロールなど「脳」を使った活動について、適切な運動が改善に役立つことを実証データで明らかにする。「体にいいことは、脳にもいい」というフレーズがすべてを物語っているが、目から鱗の内容が詰まった良書だ。

 米国のある高校で「0時間目」に運動を取り入れたところ、生徒の読解力が改善したケースを紹介する冒頭部分だけでも読んでみてほしい。早朝の補習授業や夜遅くまで塾通いを強いるより、適度な運動に時間を割いた方が学力と健康の両面でプラスが大きいのではないかと私は考えている。

 道塾投資部の合宿は、普段はモニター越しに数字やデータを操作する「作業」に明け暮れる部員たちを、生きた人間社会に引きずり出す。そこには時に理屈抜きの対人コミュニケーションがあり、身体性がモノを言う世界がある。「それ」を欠いては、全人的な成長は望めない。

 スマホに時間を吸い取られ、エクセルやパワポの資料作りやリモート会議にのめりこむ現代人も、どこかで「合宿」のような時間を作った方が良いのではないか。

漫画インベスターZ 7巻P184『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 7巻P185『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク