初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で数々の賞を受賞、まだ23歳ながら実力派として注目されている南沙良。主演映画『愛されなくても別に』はテレビアニメ化などで大ヒットした「響け!ユーフォニアム」シリーズの作者である武田綾乃が、第42回吉川英治文学新人賞を受賞した同名小説が原作。毒親たちから、虐待、性暴力を受けながらサバイブし、不幸から脱却する女性たちを清々しく、鮮やかに描いている。(撮影:高野広美 取材・文:高山亜紀)

「ダイヤモンド・ザイ」2025年8月号の「表紙の人/Precious Talk Lounge!」を基に再編集。データはすべて雑誌掲載時のもの。

自身と重なる役だからこそ“少し嫌”
役柄と日常の切り替えは得意なほう

南沙良さん南沙良●東京都出身。2017年、映画『幼な子われらに生まれ』で女優デビュー。18年、初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で数々の映画賞を受賞。24年、NHK大河ドラマ「光る君へ」では主人公・紫式部の娘役に。
ヘアメイク:瀧川里穂、スタイリスト:武久真理江、衣装ほか:ロングシャツ/mister it.、ピアス/UNOAERRE

「先に原作を読ませていただいてから、脚本を読みました。登場人物がそれぞれ抱えているものは確かに重いのですが、それでいながら、あまり悲観的にならなかったことが印象的でした。その先に光があるお話ということもありますが、不思議なことに若干、ポップな感じすらしたんです。お芝居をする上でも、最初に受けた印象を大切にできたら、と思いました」

 彼女が演じる宮田陽彩(ひいろ)は大学生。だが、学校に通う以外の時間は浪費家の母に代わり、家事をこなすか、ほとんどの時間をコンビニでのアルバイトに充てている。一人で学費と家計を稼ぐ陽彩は、周りののんびりした大学生と違い、遊ぶ時間もお金も全くない。

「陽彩は少し自分と近い部分もあったので、そこを大事にしながら、役作りを進めていきました。自分に似ているからこそ、少し嫌だなと思うことすらありました。一つ挙げるなら、辛いことの渦中にいる時に、現実を直視するのが嫌で、信じたいことを信じているふりをする、みたいなところです」

 どんな親でも、子は信じるしかない。陽彩にとって唯一の拠り所であるのと同時に、呪いのような、縛りつけるような存在であるのが、母親とお金。自分は誰よりも不幸だと思っていた彼女だが、馬場ふみか演じる、「殺人犯の娘」と噂されている同級生・江永雅(みやび)と出会ったことで、少しずつ、呪縛から解かれていく。

「私にとってお金とは、生活を豊かにしてくれるものかなと思います。じつは、そのお金を陽彩は母親に騙し取られています。それは想像できないくらいショックなことではないでしょうか。そんな時に出会った江永は、陽彩にとって、避難場所のような存在だったはずです。彼女にとって江永は、そばにいても力まずにいられる、自然体でいられる相手です。撮影をしていないところでも、馬場さんがそういう空気感を作ってくれていたので、私も役とリンクしたまま一緒にいられました」

 現場では主演として、なるべく周りの人たちと話すことを心がけていたという。タフな環境にあるキャラクターを演じることが多いが、「どちらかというと、切り替えられるタイプだと思います。カットがかかれば、そこまで役柄を引きずることはありません」とあっさりしている。