【マンガ】「勉強ができる子」と「勉強ができない子」小学2年生で生じる決定的な違い『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第60回は、「暗黙知」について考える。

足し算を「どのプロセス」で考えるか

 数学が伸び悩む天野晃一郎と早瀬菜緒に対して、東大合格請負人の桜木建二は「数の暗黙知」について解説する。

「暗黙知」とは、ハンガリーの哲学者マイケル=ポランニーにより提唱された「言語化できないが習得している知識や技能」のことである。マンガ本編で例示された自転車の乗り方の他にも、知人の顔の見分け方や、声の聞き分け方などが具体例として挙げられる。

 桜木は、数の計算もこれらと同じようなものだ、と説明する。この「数の暗黙知」に関して、今でも覚えているエピソードがある。小学校6年生の頃、たまたま1年生の担任が授業の代行に入り、足し算に関してこんなアンケートをとった。

「例えば、7+8=15という式があります。その時に『7を分解して2+5とし、(8+2)+5=15』と考えるか、『8を分解して3+5とし、(7+3)+5=15』と考えるか。皆さんはどちらですか?」というものだった。

 当然どちらが正解というものではなく、あくまで感覚の話だ。私の感覚では、真っ白なキャンバスに「8」という文字が浮かんでいる。突然上から逆さまの「7」が降ってくる。すると逆さまの「7」が「8」を押しつぶして「10」となり、余った破片が「5」を作る。これらを合わせて「15」になるのだ。

 何を言っているかあまりピンとこないだろうが、私の約20年の人生の中で幾度となく行われてきた「7+8=15」という計算は、上記のようなプロセスをたどる。他にも「6+7=13」は、私の中では6と7が横から衝突するイメージだ。

 このようなイメージは個人個人によって違う。先ほどの7+8=15の計算だと、「7=5+2」「8=5+3」と分解し、「2+3=5」を導く。すると、5が3つできるため、「5+5+5=15」になると考える同級生もいた。

雰囲気を「ふいんき」と読んでしまう人へ

漫画ドラゴン桜2 8巻P93『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 重要なのは個別の感覚ではなく、「言葉で説明できないレベルまで自然にその行為が行われていること」である。本編で取り上げられているように、九九をお経のように唱えて丸暗記するのも「数の暗黙知」の形成のためだ。

 そういえば我が家では、ドライブ旅行の車中で山野さとこさんの「99のうた」が流れていた。両親がどこまで考えていたのかはわからないが、九九を覚える際にとても役に立った。

 ポランニーの「暗黙知」の概念とはやや異なるかもしれないが、暗黙知にはある種の危険性があると思っている。例えば、ずっと「7×6=43」と思い込んでいた人が、その誤りを自然と訂正するには時間がかかるだろう。

 私は似たようなことが音位転換でも起きていると思っている。音位転換とは「とうもろこし」を「とうもころし」、「ふんいき」を「ふいんき」と言ってしまうような音素変化のことである。これも詰まるところ、言葉では説明できないうちにそういうものだと認識してしまい、修正するのに時間がかかってしまっているのではないだろうか。

 いずれにしても、「暗黙知」は便利な道具だ。だが、そもそも誤っていることを「暗黙知」してしまっては元も子もない。

漫画ドラゴン桜2 8巻P94『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 8巻P95『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク