デザイナーに求められる、ビジネスプロデュース力
企画を通すためにスキル以外に求められることとは?

――JIDAのコンテンツの発信量がかなり増えそうですね。

 実は日本って「素材」に強みがあるじゃないですか。ところが、現在は世界的な木材資源保有国の利点を生かせているとは言い難い。例えば、難燃性のCLT(直交集成板)は木造で高層建築を可能とする素材で、コンクリート都市を一変させ、ヒートアイランド対策となります。その他にも生分解性プラスチックのペレットとか、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、不織布、人工皮革、中空糸、圧電素子、光ファイバー、高強度アルミニウム合金とか、日本が世界シェアを誇る素材はまだまだあります。でも、アッセンブリーでは海外にイニシアチブを取られがちで、最終商品に近くなるほど強みが十分に生かせていない。ここにデザイナーが目を付けるだけでもイノベーションの起爆剤になり得ます。このあたりもコンテンツ化して発信できればいいなと思っています。

プロダクトデザインがイノベーションの起爆剤となる!デザイン団体の新理事長が企業を巻き込んで実現しようとしていることとは?

――素材から製品企画を導き出すところまで、企業をサポートしていくということですか。

 いきなりそこまでは無理ですが、まずはJIDAの会員デザイナーが、素材を組み合わせて社会実装まで持っていけるプロジェクトをマネジメントするスキルを高めたいですね。今って、3Dプリンターが進化して、かなり複雑な複合素材が扱えるようになっていますよね。すると、金型にコストをかけなくても新素材を使った製品開発が小ロットからできる。デザイナーが素材や製法、ツールに関する知識をトータルに持っているだけで、多くの企業を動かせます。

 私自身、企業にプレゼンテーションするときはデザインスケッチだけでなく、プロセスや生産方法による損益数字もセットで持っていきます。どれだけイニシャルコストがかかるかはもちろん、その回収の見通しも数値で示すのです。経営者が適切な投資判断を下すための材料を提供することも、デザイナーの大きな役割になると思います。

――デザイナーがビジネス感覚を持てるようにスキルを拡張していこうと。

 ただし、スキルだけでは企画が通せないことも現実には多いですよね。提案先が上司であれ、企業経営者であれ、理屈を説くだけでは響きません。大事なのは「成功事例」です。相当頑固な人でも、具体的な成功事例を見ると目の色がパッと変わります。JIDAでも事例を蓄積して、デザインスクールで配信していきたいんですよ。デザインの成功事例の紹介って、完成した製品やサービスをポンと見せて「売れています」と言うのがほとんどです。そうではなく、成功に至ったプロセスを見せていきたいと思っているんです。ミュージアムセレクションの受賞作品を解剖して、その作品が生まれたプロセスを見せるのも一つの方法だと思います。