コクヨの社長が語る、デザインセンターのない会社がデザインで体験価値を高められる理由――コクヨ 代表執行役社長・黒田英邦氏インタビュー

デザインセンターという統括組織を持ち、その組織のリーダーがデザインと経営をつなぐ役割を担うという、デザイン経営のセオリーとは異なるアプローチによって、デザインの力を経営や体験価値づくりに活用しているのがコクヨだ。社員自らが働く人々の課題を体感することで、人中心の開発を推し進める。こうしたデザインを事業に溶け込ませる組織づくりについて、同社社長の黒田英邦氏に話を聞いた。

会社が変わる方向を示した、社員によるオフィスリニューアル

勝沼 コクヨの「ライブオフィス」というコンセプトは、以前から素晴らしいと思っていました。社員の皆さんが働いている空間を公開して、ショールーム化するというのは画期的な発想です。この品川オフィスは4年前にリニューアルしたそうですね。

黒田 そうです。この品川オフィスができてから、社内の雰囲気が圧倒的に変わりました。社員のクリエイティビティを高め、働くモチベーションを向上させる空間になった。そんな確かな手応えがあります。

勝沼 空間のデザインは社内のデザイナーが手掛けているのですか。

黒田 全て社内のメンバーでプロジェクトを進めました。プロジェクトメンバーの最初のプレゼンテーションを聞いて、「これは成功する」と確信しましたね。プレゼンが、「かっこいいオフィスにする」という視点ではなく、「コクヨをこういう会社にしたい、だからオフィスはこうすべきである」というコンセプトで作られていたからです。驚いたのは、僕が構想していた会社の新しい長期ビジョンと方向性が一致していたことです。長期ビジョンと新オフィス、つまりソフトとハードによって、会社の進む方向性が定まったと思っています。

勝沼 オフィスのデザインによって、社内に流れる空気や社員のマインドが変わったわけですね。

黒田 やや月並みな言い方になりますが、オフィスのデザインとは、社員の「体験」のデザインです。その考え方は、コクヨがこれまで手掛けてきた文具やオフィス家具、空間づくりと共通しています。コクヨの製品はお客さまの体験をデザインしたものです。お客さまの体験をデザインするということは、お客さまが抱えている課題を解決して、より良い体験を提供するということです。例えば、IoT文具「しゅくだいやる気ペン」は、家庭での勉強が楽しくなる体験をデザインした文具です。体験をデザインするという意識は社内全体に行き渡っています。品川オフィスのリニューアルプロジェクトはその発露だと僕は考えています。

コクヨの社長が語る、デザインセンターのない会社がデザインで体験価値を高められる理由――コクヨ 代表執行役社長・黒田英邦氏インタビューHIDEKUNI KURODA
1976年生まれ、兵庫県芦屋市出身。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー代表取締役、コクヨ専務を経て、15年にコクヨ代表取締役社長に就任し、現在に至る。
Photo by YUMIKO ASAKURA