
日本で唯一のインダストリアルデザイン分野の全国組織である公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)の新理事長に、プロダクトデザインや社会課題解決型デザインの分野で活躍する村田智明氏が就任した。複雑化するビジネスやソーシャルの課題解決、イノベーションの創出など、デザイナーはどのような役割を果たせるのか。これから進めるJIDAの組織改革の視点とともに聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/朝倉祐三子)
日本のデザイン関連施策の規模は、諸外国と比べると小さい
多くの企業を巻き込んで、存在感を高めていく工夫を
――これまで村田さんは、オムロンの血圧計「スポットアーム」やMicrosoftの「Xbox360」の筐体デザインなど、世界的な評価を得たプロダクトデザインを手がける一方で、デザインを造形の手段に限定せず、社会課題の解決手段と捉える「ソーシャルデザイン」という概念を提唱し、啓蒙に努めてこられました。JIDAの理事長には、どのような経緯で就任されたのですか。
会員歴は長いんですが、実は長らく幽霊会員だったんですよ。ところが2023年にJIDAの理事になって初めて活動に向き合ってみると、会員一人一人の取り組み姿勢も活動の蓄積も素晴らしい。表に出るものばかりとは限らない中、地道に公益へ寄与している方々に非常に感銘を受けたのがきっかけで、JIDAの持続と発展に貢献したいと思ってお引き受けしました。
理事長としては、組織を大きくして、デザインに関わる人のボリュームを増やしたいと思っています。海外のデザイン関連のアワードやイベントに参加するといつも思うんですが、どの国も国策としてデザインに投資しているから、とにかく「規模がでかい」んですよ。一方、日本では私たちのような公益法人が主体になっていて、活動にも予算にも限界がある。JIDAのような団体がもっと存在感を高めて、国、行政、企業などさまざまなセクターとつながり、資金調達もできる存在になっていかないといけません。
――そうなるために、具体的にはどのような取り組みをお考えですか。
まずは企業を巻き込みたいですね。今回、キヤノンの石川さん(キヤノン総合デザインセンター所長・石川慶文氏)が理事に入ってくださったことには大きな意味があります。大企業のデザインセンター長クラスの方にもっと参画してほしいし、企業会員も増やしていきたいと思っています。
そのためには、JIDAに入る意義を高めないといけませんから、デザインにまつわる情報がJIDAに一元化されている状況を分かりやすく示すことが大事です。例えば、JIDAで長く活動している「素材加工研究委員会」や「社会課題研究委員会」、「プロフェッション委員会」では、一つの企業にいるだけでは得にくい情報を共有できますし、デザイナー契約を結ぶときのフォーマットなど、実務面での情報提供もしています。もう一つ、新たに立ち上げたいと思っているのが「デザインスクール事業」です。