【やばい世界史】「海賊」と呼ばれた商人たち――ノルマンディーを築いたヴァイキングの正体
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

海賊と呼ばれた商人たち――ヴァイキングの活躍
ヴァイキングVikingとは入江(フィヨルド)を意味する古ノルド語(古代の北欧言語)víkに由来するもので、その名称自体が「商人」を意味します。
海賊をはじめとする商業民族は、故地(縁故のある土地)が農業などに適していないことから商業活動が社会の維持に不可欠です(とりわけ穀物の取引など)。商業が順調なうちはいいものの、停滞すると生活必需品が手に入らなくなるため、彼らにとって死活問題となります。このため、商業活動が停滞すると、非常手段として略奪に走るのです。
世界史に登場する海賊は、いずれも商業民族に相当するのです。これは、ミケーネ文明をはじめとする古代ギリシア、中世のヴァイキング、中国の倭寇など枚挙にいとまがありません。
さて、スカンディナヴィア半島やユトランド半島を原住地とするヴァイキングは、人口増加や商業活動の停滞から、ヨーロッパ各地に出没し、略奪などを繰り広げるのです。一方で、商業民族の本分として、交易活動の拡大にも貢献します。
ヴァイキングは主に3つに大別され、それぞれ、①デーン人(ユトランド半島)、②ノール人(スカンディナヴィア西部)、③スウェード人(スカンディナヴィア東部)と呼ばれます。彼らが後に原住地に建国した国家が、それぞれ①デンマーク、②ノルウェー、③スウェーデンに発展するのです。
では、ヴァイキングの進出を読み解いていきましょう。下図(図41)を見てください。

本日はノール人について解説します。
ノール人は最も活動範囲が広いです。手始めに彼らは低地地方(ベネルクス3国)や北フランスに侵入します。フランスはセーヌ川やロワール川といった幅が広い河川が多く、喫水の浅いヴァイキング船(ロングシップ)は、大河を遡航しながら内陸の奥深くまで侵攻します。
「ノルマンディー」の誕生秘話
ノール人の侵攻に苦しんだ西フランク王シャルル3世は、北フランスの一帯を封土としてヴァイキングに与え、後続の侵入者への防波堤にしようと考えます。
911年にサン・クレール・シュル・エプト協定が西フランクとヴァイキングで結ばれ、フロールヴ(ロロ)を首長とするヴァイキングの一団は、セーヌ川河口の一帯に定住します。これ以降、この地域は「ノルマンディー」と呼ばれ(ノルマンディー公国の成立)、定住したヴァイキングたちは「ノルマン人」と呼ばれるようになります。
ノルマン人は、11世紀にイングランドや南イタリア、シリアにまで進出し、各地でノルマン国家を樹立するのです。この他、ノール人の一派はグリーンランドを発見し、北米にまで入植地を築きます。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)