今回の研究チームのメンバーである大庭准教授は、以前の研究で「コオイムシは、卵を世話しているオスがメスからパートナーとして選択されやすい」ことを明らかにしました。本研究では、実際にコオイムシは自分の子でない卵を背負っているのか、そうだとしたら「赤の他人の子」の割合はどのくらいなのか、「托卵」されることでオスにメリットはあるのかについて、詳細に調べました。
コオイムシのオスは、1個体が背負う卵の数が100個以上にも及ぶことがあります。これらの卵は複数のメスによって産み付けられます。一方、コオイムシのメスは複数のオスと交尾することが知られています。メスの体内には交尾相手の精子を一時的に貯蔵する器官(受精嚢)があるため、オスの立場から見ると「自分に産み付けられた卵が自らの精子で受精した『自分の子』とは限らない」というリスクがあります。
繁殖様式は「乱婚型」
そこで本研究では、個体識別した20ペアのコオイムシを約1ヵ月間、飼育ケース内で自由交配させ、実験期間中に孵化した幼虫と親個体のDNA情報に基づく親子判定を実施しました。
その結果、多くのオスとメスが複数の相手と交配しており、「乱婚型」の繁殖様式であることが明らかになりました。オスが背負っていた卵が自分の子である確率の平均は約65%で、個体によっては10%から100%と大きなばらつきがありました。これは、これまで定説とされてきた「父育行動が進化した動物での自分が父親である確率」と比べて極めて低い値でした。
また、基本的には、他のオスに比べてより多くの卵を保護しているオスが自分の子孫を多く残していました。この結果は「イクメンアピール(卵を保護しているという状況)自体が、メスから交配相手として選ばれやすくなる条件になっている」という先行研究の仮説と合致しました。
自分の精子によって受精していない卵を背負うことは、オスにとって不利益な行動に思えます。けれど本研究の親子判定によって、背負っている卵が自分の子であろうとなかろうと、たくさんの卵を背負うオスほどメスに配偶者として選ばれやすく、結果的に多くの子孫を残していることが明らかとなりました。このことは「メスが卵保護行動をとるオスを選択することによって父育行動が進化した」というコオイムシの進化に関する考察を支持する結果となりました。