「目標」が“自分ごと”になる瞬間をつくる

どんなに合理的な目標であっても、それが「上から与えられたもの」「自分には関係のないもの」と感じているうちは、部下は動きません。つまり、目標に対して“自分ごと化”できていないのです。

そのためには、以下のような対話が欠かせません。

● なぜこの目標が必要なのか
● これにより誰がどのように幸せになるのか
● この目標の実現に、自分がどう貢献できるのか

この3点を対話の中で繰り返し丁寧に伝えることで、部下のなかに「自分がこの目標に取り組む意義」が芽生えます。

「成果」ではなく「意味」を語る

リーダーがありがちなのは、「この目標が達成できれば●億円の利益が出る」といった“成果”ばかりを語ってしまうこと。しかし、現場の社員が潜在的により知りたがっているのは「自分の仕事にどんな意味があるのか」ということです。

たとえば営業職であれば、売り上げという数字の向こうに「お客様の課題が解決されて、感謝されている」という実感があるかどうかが大きな違いを生みます。

数値目標を伝える前に、「この仕事には、誰かを幸せにする意味がある」という“物語”を語ることが、部下の心を動かす鍵です。

「称賛」と「承認」が人を動かす

部下の多くは、「目標を達成しても評価されないのでは?」という不安を持っています。逆に言えば、自分の行動が「見られている」「認められている」という感覚があれば、行動は自然と変わっていきます。

ちょっとした進捗や、日々の努力を見つけたら、次のような承認を惜しみなく伝えてください。

「あの資料、説得力あったよ」
「あのトラブル対応、助かった」
「今月の数字、よく粘ってくれたね」

承認のひと言が、部下の中にある“内なるエンジン”に火を灯すのです。

「小さな成功体験」で自律性は育つ

目標に向かって主体的に動くには、「自分にもできる」という感覚=自己効力感が必要です。そのためには、大きなゴールよりも、まずは「小さな成功体験」を重ねる仕組みを用意しましょう。

たとえば――

月間目標ではなく、1週間単位の小目標に落とし込む
自分で行動計画を立ててもらい、定期的に振り返りを行う
チームで小さな成果を共有しあう「称賛ミーティング」を設ける

こうした小さな工夫で、部下は「やらされ感」から「やりたい感」へと変わっていきます。

リーダー自身が“幸せに働く姿”を見せる

そして何より重要なのは、リーダー自身が「この仕事は面白い」「誰かの役に立っている」と心から感じながら働いていることです。部下は、リーダーの言葉よりも姿勢を見て育ちます。

リーダーがいきいきと働いていれば、部下も「この目標には価値があるんだ」と無意識に受け取ります。

目標を“感情”で伝える時代へ

合理的な目標を立てるだけでは、組織は動きません。今求められているのは、「目標の合理性」ではなく「目標の感情的納得感」をいかに作るかです。

目標を通じて働く幸せが見えるとき、部下は初めて「やらされる」から「自らやる」に変わります。

※本稿は『リーダーは日本史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。