FA制度も、メジャーでは選手の権利を守ると同時に、選手の出場機会を増やし、球界全体の活性化を促すのが本来の目的です。多額の年俸を支払う球団は、リーグ全体と選手年金の資金として一定の金額を支払う「贅沢税」というペナルティ的な制度も導入されていましたが、日本では導入されないまま。組織を守るために、長嶋監督が本来望んでいたであろう、若手を育てる魅力あるチーム作りも封じられてしまったのです。
巨人がFAで入団させた選手は実に29人。他球団で次に多いのはソフトバンクの17人。逆指名だけでなく、原辰徳監督の甥である菅野智之投手や澤村拓一投手のように、巨人以外の入団を拒否して、他球団の指名を回避させようという作戦までとりました。しかし、この不公平な制度には巨人ファンまで愛想を尽かし、地上波ではほとんど放映できなくなるほど視聴率が低下してしまいました。
日本球界は「メジャーの2軍」に…
長嶋さんが抱いていた夢とは
ミスターが創った日本のプロ野球は、このままでは実力のある選手がどんどん海外に流出し、「メジャーの2軍」になってしまうでしょう。長嶋さんの死去に際して、こうした危機感を訴えることこそ、スポーツメディアの使命なのではないでしょうか。
実は、球場の平均観客動員数を比べると、日本が2万9221人なのに対して、メジャーは2万9114人と、日本の方が多いのです。それなのに、日本人選手の平均年俸は4339万円(選手会調査)で、米大リーグの平均年俸約7億6000万円(開幕時)と比べて格段に低いのが現実。これでは、良い選手がメジャー志向になり、日本を出ていくのは当然です。
米国と比べて人口が少なくても、日本のほうが観客動員数が上なら、選手の働きに報いて年俸を増やし、「メジャーの2軍」になるのを食い止める方法はあるはずです。メジャーの総収入は1兆4000億円(2022年)で、日本は1500億から2000億円(非上場の会社があるため推定額)に過ぎません。観客動員数が変わらない以上、野球観戦以外での収入増もメジャーに学ぶべきでしょう。
パ・リーグは10球団構想の失敗後、地元密着のエンタテインメントとして発展を遂げ、観客動員数も日本シリーズの勝敗も同リーグが優勢になりました。メジャーは全体でテレビ局と交渉して放映権料を決め、平等に分配するのに、日本では各球団が個別に決めているため値段交渉に失敗し、親会社の広報資金頼みの球団がいまだに存在します。