しかし、巨人が勝てば新聞の部数が上がるという時代は、渡邉恒雄オーナーの死去もあり、一つの区切りを迎えたと言えます。メディアの地殻変動が起きている今、新聞がいつまでも大部数を維持できる保証はなく、むしろ今後どんどん部数を落とすことは避けられそうにありません。経営の次の核を探すのに各社は必死です。
そう考えると、読売新聞の稼ぎの中心が、名実ともに巨人を擁する「読売興業」となることは、必然と言えないでしょうか。そこで大きな収入を得ることができ、それにより取材費が増え、かつてのような活気ある紙面が少しでも復活すれば、新聞もまた新しい時代を迎えられるかもしれません。
現在、プロ野球のエクスパンションはまだパ・リーグ中心に行われていますが、読売グループの代表であり、読売巨人軍のオーナーでもある山口寿一社長がどこで舵を切るか、どう判断するかで、日本のプロ野球は大きく変わります。
全国的地上波の放送こそなくなったものの、野球場はどこも満員で、動画配信のプロ野球中継は今でも十分に視聴料をとれているのですから。
一方が旅立っても
「ON」の志は永遠に不滅
残念ながら、プロ野球を支えてきた「ON」の一人は旅立ちました。しかし彼は、日本野球の隆盛とメジャーに勝利する夢を、天国でまだ見続けているはずです。
長嶋さんの次女の三奈さんが、父親が元気なころ、こんな質問をしたそうです。
「お父さんと王さんはライバルなの?」
これに対して、ミスターはこう答えました。
「違うよ。王さんとお父さんは2人で必死で巨人軍のために戦っているんだ。片方が打てないときは、代わりはおれがやる、といつも思っているんだよ」
もう長嶋さんは、グランドに立ってプレーすることも指導することもできませんが、プロ野球機構全体の改革を、これからも「ON」2人の志で実現してほしいと切に願います。
(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)