責任を“死で償う”時代は終わった?『おしん』と『あんぱん』が描く“戦後の答え”のちがい【あんぱん第63回レビュー】

「すべての人を喜ばせる正義。
僕はそれを見つけたい」

「何年かかっても何十年かかっても」「みんなが喜べるものを作るんだ」と言ったのは父・清(二宮和也)である(第59回)。「何年かかっても何十年かかってもみんなを喜ばせたいんだ」のトーンには、ちょっと何かを思い出しているような気配を筆者は感じた。

 嵩は出会ったたくさんの人たちの思いを受け止めて、その気持ちを作品に込めていくということだろう。

「正しい戦争なんかあるわけないんだ。そんなのまやかしだよ」

「だから正義なんか信じちゃいけないんだ。そんなもの簡単にひっくり返るんだから。でももし逆転しない正義があるとしたら、すべての人を喜ばせる正義。僕はそれを見つけたい」は多くの出会いのなかで見つけた嵩のオリジナルである。嵩は戦争に行く前と比べてずいぶん、落ち着きが出て、思慮深さが備わったように見える。

 嵩の言葉によって、のぶは死んで責任をとるのではなく、生きて、どうすればよかったのか問い続けていくことを選択するのだ。もしかしたら、それは生きないことを選ぶよりも超絶G難度なことかもしれない。

 そこへ、空襲のときのぶが助けた少年なおきが母といっしょに現れる。「ハチキンのおねえちゃんや」と明るく声をかける少年。のぶだって人を救っているのだ。

「ハチキンのおねえちゃん か…」と嵩がなおきの口真似をしてからかって、久しぶりに笑顔が戻った。

「ほいたらね」「ほいたらね」と別れていく母子とのぶと嵩。

 嵩は再びシーソーの広場へ。夕焼け空を見上げる嵩。

 のぶも高知の焼け野原で夕焼けを見つめている。

 これはまるでタイトルバックのラストのようだった。

 やがてこの空にまあるいほっぺたのあのキャラクターが浮かびあがるのであろう。

 第61回で教科書が真っ黒に塗られて反転した世界にあのキャラクターが誕生するときが待ち遠しい。

 責任を“死で償う”時代は終わった?『おしん』と『あんぱん』が描く“戦後の答え”のちがい【あんぱん第63回レビュー】